気温が上がり、路面の雪の融けた山道を通って出勤する。気分がいい。
‘Chatwin’という姓はもともと‘Chette-wynde’と言い、アングロサクソン語で“曲がりくねった道(the winding path)”を意味したことから、‘WINDING PATHS’と題されたチャトウィンの写真集。asin:0224060503
ブルース・チャトウィンは『ソングライン』のなかで、自分の根深い放浪癖とアボリジニの「放浪の旅(Walkabout)」への興味につながる幼い頃の三つの思い出を語っている。一つ目はルースおばさんと読んだ『オープン・ロード』という旅人向けに編まれた詩集で、強く印象に残った「松林を曲がりくねって抜けていく一本の明るい道(a bright path twisting through pine woods)」が示されたビアズリー風の挿絵のこと。二つ目はホイットマンの「大地の歌」のなかの次のような「道」を讃える詩。
おお、万人の道(Public Road)よ……
おまえは私自身よりも巧みに私を表してくれる
私にとって、おまえは私の詩を超えるものとなるだろう。北田絵里子訳『ソングライン』20頁, asin:4862760481
そして三つ目は、「チャトウィン」という家名の由来にまつわるエピソードだった。
ある日、ルースおばさんは、僕たちの家名はもともと“チェッテワインデ(Chette-wynde)”と言い、アングロサクソン語で“曲がりくねった道(the winding path)”を意味したのだと教えてくれた。それ以来、ホイットマンの詩と、自分の姓と、道の三つは分ちがたく結びついて、僕の心に根づいていった。
北田絵里子訳『ソングライン』20頁, asin:4862760481
この部分は原文ではこうである。
One day, Aunt Ruth told me our surname had once been ‘Chette-wynde’, which meant ‘the winding path’ in Anglo-Saxon; and the suggestion took root in my head that poetry, my own name and the road were, all three, mysteriously connected.
Bruce Chatwin,THE SONGLINES, Viking, 1987, p.9, asin:0140094296
歪んだ世界を通して見たとき、曲がりくねって(twisting, winding)見える道は、しかし、じつは、人生を全うする一番の近道なのかもしれない。ちなみに、原文の‘mysteriously’が深く意味を汲んで「分ちがたく」と訳されているところに翻訳の苦労が偲ばれる。