汝の敵を愛せるか?

「汝の敵を愛せ」(アルフォンソ・リンギス、asin:4879848018)るか? 愛とか平和の問題は結局はそこに逢着する。そしてそれは個であることの深い自覚に連動した真の歴史の始点であるというような意味のことを辺見庸は随所で語った。例えば、

…みなともっと別れよ。みなからもっと離れよ。人をみなといっしょになって嘲ってはならない。その彼か彼女をみなといっしょになって指弾してはならない。その彼か彼女が疑いもなく悪ければわるいほど、みなと声を一つにして指弾してはならない。みなとともに叫んではならない。みなとともに祈ってもならない。みなと同じ声で泣いてはならない。みなといっしょに殺意をいだいてはならない。みなといっしょの認識には、かならずといってよいほど錯視がふくまれているから。みなといっしょの行動にはたいてい救いがたい無神経とヒューブリスと暴力ないしその初歩的形態がひそんでいる。(辺見庸『記憶と沈黙』9頁、asin:4620317985