牧田清写真集『猪飼野発25時 原像』

人が生きる場は行政区分された地域や町ではない。それは様々な個人史を背負った人々の出会いの重なり合い続ける過程の全体である。他所の風景や辺境の風景を撮るのはある意味で易しい。だが、自分がたまたま暮らす街と親しい人達に改めてカメラを向けるのは案外難しい。その距離は一見近いようで無限に遠いことを思い知らされるからである。でも、そんな自分の街と親しい人達をしっかり見つめたような写真が好きだ。「猪飼野をトボトボ歩いて写真を撮る。別に重大事件を追いかけているわけでもなければ、写真で芸術しようとしているのでもない」と語る牧野清さんの写真集『猪飼野発25時 原像』は、済州島と大阪の歴史や地図から消えた猪飼野にまつわる様々な先入観なしに見ても、高村薫が言うように、なぜか「涙がでるよ」。ほんとにいい写真集だなあ。





原像―猪飼野発25時

原像―猪飼野発25時