突然、炎の如く

ある日、散歩から戻ると、郵便受けに一枚の葉書が入っていた。十数年来の付き合いのあるMさんからだった。付き合いといっても、年に数回、仕事上の用件で会い、仕事の話をするだけだった。個人的な話はほとんどしたことはなかった。でも、お互いにどこか仕事を越えた縁のようなものを感じていた。いや、それは私が一方的に感じていただけかもしれない。葉書にはワープロで打たれた小さな文字が不自然な大小の空白を伴って並んでいた。まるで美しい視覚詩(Concrete poetry, Visual poetry)のように見えたが、内容は現実的だった。今勤めている会社を退職するとあった。ついてはS君が仕事を引き継ぐのでよろしくという。「退職」という言葉が二度使われていた。そして二度目には「突然の退職」とあった。「突然」だったために、直接挨拶には行けないと。今後のことについては全く触れていなかった。私は「突然」という言葉に一瞬胸が焦げるような感覚をおぼえた。