バスのうた

風太郎が生きていたころはバス通りを散歩することはなかった。風太郎が死んで2年たってもバス通りを散歩することはほとんどなかった。最近毎日のようにバス通りを散歩するようになった。バスを見るのが好きになった。バス停で待つ人を見るのが好きになった。私も彼らにまぎれてバスにのってどこでもいいどこかへ行きたくなる気持ちをおさえてバスを見送る。何台も見送る。何台も見送っているうちに私に似た誰かがバスに乗ってどこかへ行くのが見えるようになった。私は彼の後ろ姿を見送る。バスに乗って彼はどこへ行くのだろう。そんなことを思いながら私はまたバス通りを歩きだす。ふとバスのなかでは私に似た誰かが私の後ろ姿を見送っている気がした。