歩行をめぐる問い


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 歩く、近づく、見えてくる。わたしたちの日常にあるごくふつうの経験だが、三つの行動のあいだには、距離と視覚そして記憶という、歩行をめぐる問いが横たわっている。アルベルト・ジャコメッティが残した彫刻、特にその立像はわたしたちに近づくことと遠ざかることの不思議を教えているように思う。
(中略)
「傷以外に、美の起源はない」。
 ジュネはそう書いていた。わたしたちが歩き続けるのは、遠くにある傷へ向かって近づこうとするからなのか、それとも傷から遠ざかるためなのだろうか。

  港千尋『パリを歩く』から


なるほど。問題は「傷」の正体だが、それは「パリを歩く」だけでは見えてこないだろう。