PRIORITY AIR MAIL?


二か月前にブルックリンのリーブルノワールLivrenoir)書店に注文した古書が、PRIORITY AIR MAIL (優先航空便とでも訳したらいいのだろうか)でようやく届いた。PRIORITY は EXPRESS(速達)ほど速くはないが、NORMAL(普通)よりは速い、言わば準速達の扱いのはずだが、どうして二か月もかかったのだろう。まるで船便なみだ。謎である。とは言え、不平をもらしているわけではない。それどころか、届いた本がちょっと変わった本だからということもあって、一体どこでどんな寄り道をしてきたのだろうか、といらぬ想像を楽しんでさえいる。




届いた本は Jonas Mekas Artists' Book(onestarpress, 2003)。ジョナス・メカスにとって大切な友人である多くの芸術家から彼宛てに送られてきた葉書、絵葉書、メモ書き、絵、写真などの実物70点余りがそのままただ複写印刷されて一冊にまとめられたものである。雑多なスクラップブックと言ってもいいような、本としてはギリギリの印象の本である。そこがメカスらしいと言えば、らしい。巻末にメカスがタイプライターで打ったこの本の成り立ちに関する簡単な説明と各項目に関する短い説明の一覧が載っている。メカスによれば、この本は当時までのメカスの映画日記と文章日記の「続編」(a sequel)として位置づけられる。また、この本はノンブル(頁番号)を欠いているのだが、頁付けがなくとも、各項目の同定に困難はないはずだとメカスは付言している。たしかにそうである。


奥付の情報から、この本の出版経緯について分かることは次の通りである。2003年7月2日から28日までパリ市立近代美術館(Musée d'art moderne de la Ville de Paris)で「ジョナスのカメラ」(A camera for Jonas)と題したジョナス・メカスの個展が開催された。それにあわせて、美術館の後援のもとにパリのワンスター出版(onestar press)から1000部限定のモノクロ版が刊行された。さらにサイン入りで一部カラーの特別版200部も刊行された。印刷と装幀はバルセロナのポリクロム(Policrom)社である。ニューヨークから運ばれた素材がパリで編集され、それがバルセロナで加工され、再びパリに運ばれで出版されたわけである。


モノクロ版の1000部のうちの1部は、その後、パリから海を渡りニューヨークはブルックリンのリーブルノワールLivrenoir)書店に漂着した。そして、再び海を渡り、二か月かかって、極東アジアの島に暮らす私のもとに届いたというわけである。この二か月間に一体何があったのか。単純な手続きミスだったのかもしれない。もしかしたら、私が注文した時点ではまだリーブルノワールに漂着していなかったのかもしれない。あるいはリーブルノワールを出た後にどこかに寄り道するようなトラブルがあったのかもしれない。あるいは、、。想像は尽きない。


肝心の本の内容に関する感想を書く気力がなくなってしまった。ただ、スロベニアDZS GRAFIK で印刷されて、2009年にパリのディス・ヴォワール(Dis Voir)社から刊行された Jonas Mekas TO PETRARCA は、この本の「続編」であることは明らかである。


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