India Song


ひと月ほど前に、マルグリット・デュラスの著作『ガンジスの女』(La Femme du Gange, 1973)の冒頭の場面をとりあげた。「遠くから女の声で、非常に小さく口ずさまれる歌。『ブルー・ムーン』。一九三一年のブルース」(亀井薫訳)が聞こえてくる場面である。


「まだ観ぬ同名の映画(1972年)の中では、ジェラール・ドパルデューが『ブルー・ ムーン』を口ずさんでいるらしい」と私はどこかしっくりこないまま書いた。今日になって、「がっかりされるかもしれませんが、歌は『India Song』でした」、と『ガンジスの女』の訳者である亀井薫さんが知らせてくださった。亀井薫さんは映画『ガンジスの女』の日本初公開(2009年)に尽力された方でもある。がっかりはしなかったが、驚いたと当時に腑に落ちるところがあった。あの場面には「インディア・ソング」のほうがふさわしい気がする。亀井薫さんご自身もあの場面に「ブルームーンは似つかわしくはない」と感じていたという。それにしても、映画で歌われる「インディア・ソング」と映画公開の翌年に刊行された著作で明記された「『ブルー・ムーン』。一九三一年のブルース」との関係は如何。