気配を撮る写真家、ロバート・ポリドリ(Robert Polidori, b.1951)


 Edwynn Houk Gallery




 Edwynn Houk Gallery - Jonas Mekas / Robert Polidori


2月23日からニューヨークのエドウィン・ホーク・ギャラリーで、「ジョナス・メカスとロバート・ポリドリのポートレイト」展が始まる。ジョナス・メカスの1月22日の日記に掲載されたプレス・リリースで知った。気軽に見に行けないのが残念であるが、エドウィン・ホーク・ギャラリーの公式サイトには、展示される作品の一部が掲載されているので、ある程度雰囲気を味わうことはできる。今回展示されるメカスの作品は彼が「静止した映画(Films immobiles)」あるいは「凍ったフレーム(Frozen Film Frames)」と呼ぶ作品である。今まで未公開のものも含まれているという。その作品の背景や意義については、下のエントリーを参照していただきたい。


メカスの助手として映画的キャリアを積んだ後に写真家に転身したポリドリの作品は驚くほど鮮明であるにもかかわらず、ある独特の気配を漂わせている。自然光の下で特注のキップ・ウェットスタイン(Kipp Wettstein)の大判カメラを使う彼の独特の撮影方法については下のエントリーを参照していただきたい。


今回展示されるポリドリの作品は、近年の中東、インド、中米の旅の途上で自然光で撮影された人物写真が中心のようだが、ウェブ上のデジタル化された小さな写真を見ても、その土地で暮らす人々の生活の細部まで垣間見えるような驚くべき鮮明さと独特の気配が非常に印象的である。単に綺麗な写真というわけではない。むしろ恐ろしいほど美しいと感じる。



 Edwynn Houk Gallery - Robert Polidori


エドウィン・ホーク・ギャラリーの公式サイトにはロバート・ポリドリの過去の代表作をシリーズ化して紹介する独立したページも設けられている。そこに掲載されているやや詳しい経歴の中に彼の基本的な写真観が窺える一節がある。それによれば、彼はブレッソン流の「決定的瞬間」を受け付けない。その代わりに彼が好むのは「美や静止や凝視の複雑な質」であるという。そして様々な建築の室内写真を撮って来たことでも知られる彼は、例えば部屋というものは過去と現在の生活の「気配」によって特徴づけられた「記憶の場所」の比喩であり容器であると考えているという。腑に落ちるところがあった。彼は戸外で人物に向き合う場合にも、その人物の過去と現在の生活の「気配」が記憶されるような撮り方を強く意識しているに違いない。彼は技術的には大判のカメラでやや遅いシャッタースピードつまりやや長い露光時間で撮るようだが、向き合った人物の過去と現在の生活の気配がその大きなフレームの中に複雑な痕跡のように浮かび上がるまで待ち、それをやや長い露光時間で捕らえるのだろう。そのような気配を撮ることはやはり「決定的瞬間」の考えとは根本的に馴染まないのかもしれない。