樹木のイメージ:竹村真一『宇宙樹』


宇宙樹


最高気温はプラスになっても、最低気温は氷点下の日が続く札幌では、根方が根雪に埋まった木々はまだ冬の眠りに就いているように見える。だが、濡れたように光る冬芽を見るとハッとして、木々は僅かに残った水分を枝先に集め、春に向けて着々と準備しているのだと気づく。


竹村真一氏の語る「水柱」としての樹木のイメージ、特に春先に地下の水脈から水が立ち昇り、そして舞い踊るというダイナミックな〝水の舞踏〟のごとき樹木のイメージは、これから春先を迎える北海道に住む私をワクワクさせる魅力的なイメージである。

 樹は立ち上がった水だ、という表現がある。
 夜、実体としての木々が姿を消した真っ暗な樹林で、もし樹々の内部を流れる水だけが蛍光を発して浮き出てきたとしたら、ぼーっと立ち上がった、ゆるやかに踊る水柱の群れが、さぞ美しいだろう。
 私たちの身体もその70%が水であり、〝歩く水袋〟のようなものだが、樹木の場合はことさらに水が地面から大きく伸び上がり、手を一杯にひろげて自らを成就するような垂直性の歓びを表現しているように感じられる。
 春先などは特に、樹木の太い幹に耳を当ててみると、そのなかをボコボコと勢いよく地下の水が立ち昇っているさまが手にとるようにわかる。
 冬のあいだ凍結による組織破壊を防ぐために、ほとんど水を吸い上げていなかった木々が、春になると新たに地下の水脈に呼びかける。枝の先端についた幾多の新芽が、自らの秘めもつ水分からほんの少しずつ小さな水の種子を出しあって、もう一方の先端である根に〝誘い水〟を送る。これが大地と水脈にむけての木々たちの最初の挨拶だ。
 するとそれに呼応して、このいまできたばかりの「水の道」を大地の血液が毛細管現象でひたひたと昇りはじめる。人知れず地下を水平に伏流していた水が、樹木という生命のかたちを借りて、突然そこらじゅうで嬉しそうに立ち上がる。
 そして螺旋を描いて舞い踊り、重力に抗して昇華された水の運動が文字通り「花」となってそこらじゅうで咲き乱れ、また甘い液となってほとばしり出る。樹木が星の動きや季節のうつろいに呼応して生命のリズムを刻んでいるということが、最もリアルに体験できる瞬間だ。(37頁〜38頁)