冷雨、九月

雨はいちだんど激しく
カーテンはちぎれて垂れ

  「冷雨」より(『正津勉詩集』現代詩文庫、1988年、83頁)



熊谷市広瀬のナオザネ堂から届いた古書『正津勉詩集』(現代詩文庫、1988年)の扉に黒のボールペンで署名があった。かなり崩れた書き方だが(酔っぱらって書いたのだろうか)、「正津勉(しょうづべん)」と読める。著者本人のサインと見て間違いなさそうだが、その真偽のほどはどうでもよく、そのサイン自体が大変興味深い。ご覧のように、おそらく意図的だろうが、最初の「正」の字に、文字の種子のような、書くことの始原の混沌のような、大きな黒点が二つある。音符が二つ、あるいはオタマジャクシが二匹いるようにも見えて、ちょっとユーモラスな感じもする。それだけでも面白いが、さらに、二つの大きな黒点は透明なビニールカバーの折り返し部分に、押し花の跡のようにうつり、両者は鏡像のように存在しているのである。これこそ上の詩句における雨とカーテンの素敵な出会いよりも詩的な出来事、意図せざる出来事ではないだろうか。