遥かに遠い「日本の窓」から


日本の窓



日本の窓 (淡交ムック)


「日本の窓」とはいい、普段は目にすることのかなわない窓ばかりである。その「日本」はある意味では異国よりも遥かに遠い。しかし、それにしても、美しい窓ばかりだ。固有の風土や時代のなかで要求される複雑な機能が、少なくとも私の想像を越えた意匠(デザイン)にまで昇華されている。なかでも最も強く印象に残ったのは、中部から北陸地方の豪雪地帯の町家に見られる「スムシコ(簀虫籠)」と呼ばれる、雪の吹き込みを防ぐ機能をも備えた美しい格子窓だった。飛騨高山や金沢の町家の多くに見られるという。スムシコについて、日本建築史家の大場修氏は次のように述べている。

 これは堅子の間に簀の子状の割竹を挟み込んだもので、繊細の極みといった格子窓である。それゆえ、雪と、外からの視線をほぼ完全に遮るとともに、逆に室内からの眺めは、格子の存在を感じさせないほどに良く見える。格子の技術のひとつの頂点をこれに見ることができよう。
 考えてみれば、スムシコほどに光と風と視線、さらには雪を合理的に処理する装置を、現代住宅は果たして備えているであろうか。しばし伝統技術を振り返るとき、えてして郷愁に浸りがちになるが、そこに見出せる先人の知恵は、現代の都市住宅のあり方を再考する契機になるように思えてならない。

  『日本の窓』(淡交社、1997年)107〜108頁より


実物を外から内からこの目で見てみたいものだ。