魔法としての料理と神のデザイン

受講生の皆さん、こんばんは。

当初、「難しくて、ついて行けない」と悲鳴をあげていた人たちも、次第に「難しいけど、面白い」と食いついてきてくれるようになったことは、本当に嬉しいことです。

今回は、
1)前置きとして、この講義の目的のひとつである、色んな分野の知識をその気になればいつでも人生を深く楽しく味わうための行動に直結させられるような「生きた状態」にすることについてお話ししてから、要望の多かった銀河のカラー写真を見てもらいました。宇宙への関心の多さには驚きました。矢地先生の「宇宙論」の講義に出てみるといいかもしれません。

2)メインの資料[三上研究室 > 情報文化論 > 「6神と宗教の発明」(「6魔法としての料理と神のデザイン」改題)]を用いて、台所と料理の「情報文化的」側面について解説し、そこで重要な役割を演じる「水」と「火」に関する象徴的解釈から古代の宗教的情報文化史に入りました。歴史の教科書でなされるようなマクロな記述の背後で起こっていた現代にも通じるところのある人間集団の力学、メカニズムを押さえることが肝要です。特に母集団からの子集団の分離のメカニズム、バール信仰とヤハウェ信仰の対立、アフラ信仰からデーヴァ信仰が生まれたメカニズム等に関してはサブ資料(05神の発明, 051文字と宗教の源流)で復習しておいてください。メイン資料の最後に付け足した文章が今回の授業のまとめにもなっていますから、ここに再掲しておきます。

「いわゆる民族の移動と侵略の歴史、すなわち民族の母集団化と母集団からの子集団の分離の繰り返しを通じての、都市国家群から帝国の成立の過程は、原始観念技術のなかに芽生えていた信仰がやがて宗教になり、神殿を伴った宗教都市国家が成立する過程でもあります。侵略や征服の中で起こっていた重要なことは、「契約」による相手集団の民族的記憶の変換や創成、一種のマインド・コントロールでした。また素朴な信仰が宗教になるには、信仰の対象が世界の原理としての神とみなされ、さらに世界の創造者と読み替えられていくことが必要でした。そしてその未曾有の力を授かった王が現実の国家を支配したわけです。物語的に見れば、古代文明は巨大な神話空間、すなわち神々の闘争の舞台であり、情報文化的にみれば、それは初期宗教的情報システムの形成です。そこでは世界の情報を神々をノード(結節点)としたネットワークとして再構成しています。」

さて、今回辿った歴史はかなり野蛮な歴史でした。その野蛮さに抵抗を覚えた人もかなりいたようです。エジプト神話にみられる他とは異質なある種の寛容さにやや救われた気分になった人もいたようです。古代エジプトの神話空間は、おそらく西欧のキリスト教徒徒に滅ぼされたアメリカ大陸の古代文明のそれに通じるのだと思います。また、人間が自然の中から水や火、とくに「火の力」を引き出し管理しはじめた、その一定の延長上で侵略や殺戮を繰り返してきたことに深い失望を表明してくれた人もいましたが、たしかにその線は「化石燃料」→「原子力」=「核兵器」にまでつながるわけですから、人間=男たちが作ってきた「力(権力、暴力)の歴史」とは別の歴史の可能性を古代に淘汰された側の痕跡に探りたくなる人も多いと思います。(この「痕跡」に関して、現代における「痕跡の思想」は私の研究テーマのひとつでもあり、そのうちその一端を披露できるかもしれません。そのあたりに興味のある人はエデュアール・グリッサン著『全-世界論』を読むことを薦めます。)

ところで、古代の知識を孤立した教養的知識に閉じ込めてしまわずに、現代の出来事にも関連づけること(情報編集)が必要です。その際もちろん共通性と同時に違いにも留意しなければなりません。今回は暴力団や格闘技界の派閥抗争の例を挙げましたが、それはけっして「こじつけ」ではありません。政党間の対立や政治家の派閥闘争など、ほかにいくらでも関連づけられる事象があります。言われてみれば「ある意味で」当然なことばかりですが、指摘されるまでは知らないわけですから、今後は自分の力でできるだけ色んな事象に関連づける努力をしてください。それが冒頭でお話した知識を「生きた状態」にする方法です。