『ウェブ進化論』を読む7:言語化不可能な知

受講生のみなさん、こんにちは。
今回は、
1)ビル・ゲイツの「引退宣言」記事「ゲイツ後プログラム済み?」(朝日2006.6.17)の概説、
2)いわゆる「グルメサイト」の進化に関する記事「店選び口コミ結集」(朝日2006.6.25)の概説、
3)「ネットで力増す『集団の知恵』考」(朝日新聞2006.6.27)の概説
を行ってから、
4)「『ウェブ進化論』を読む7」を詳しく解説しました。

1)、2)、3)については、これまでの授業内容の復習を兼ねて、記事を批評的に読み、書き手の事実誤認や認識不足についても指摘できるかどうかを意図しながらお話しましたが、再度熟読して、1)に関しては特にIT産業におけるパソコンからネットへの移行の本質、2)と3)に関してはWeb 2.0の動向における「素人の知識の集合体」、「集団の知恵」に対する立場の違いがビジネスの形の違いになって現れるという点をしっかり押さえておいてください。

4)に関しては、三上研究室の方にも書きましたが(「10ウェブ進化の現状と展望」)、先ず前半では、羽生さんが指摘するITとネットの進化によって将棋界で起こっている驚くべき「学習環境」の整備が、実はほかの分野においても程度の差こそあれ、着実に進行しているという事実を踏まえた上で、「その先」を考えることの大切さを知りました。後半では、先ず、Web 2.0の動向を精確に把握するための明快なマトリクスが導入され、Web 2.0そのものの定義と既存のIT企業の位置づけを再確認しました。次いで、マイクロソフト創業者ゲイツとグーグルの創業者ページとブリンの世代の違いに基づくビジネスモデルの違いについて学びました。世代の違いは育ったIT環境の違いを意味し、そこでの「感動」の違いが、アイデアやコンセプトの違いにつながっていることがポイントです。梅田氏はそこからさらに興味深い推理を展開し、世界中で最も進んだITインフラの中で呼吸している今中学生くらいの日本人の中から2010年代にはグーグルを凌駕するベンチャーが生まれる可能性について触れています。世代論はともかくも、大切なことは、自分が育った環境の中でどんな可能性を思い描くことができるかよく考え、その可能性に感動し、その感動をなんらかの形にしていくことができるかどうかということだと思います。そういう意味では、羽生さんがそうであるように、実はITやネットに乗らない「言語化(記号化)不可能な知」の重要性を、他方ではしっかりと押さえておく必要があります。