朝日新聞の日曜コラム「水/地平線」(7/9)に関本誠氏が興味深い報告「サラエボ」を寄せている。
まだ耳新しい流血なしのモンテネグロ独立を祝う式典が13日古都ツェティニエなどで開かれる。しかし、20万人の犠牲者を出したボスニア紛争を最前線で取材し今も自国で戦争犯罪を厳しく追求する活動を続けている女性がいるという。モンテネグロの隣国ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボに拠点を置く週刊誌『ダニ』の編集長セリムベゴビッチである。関本氏によるインタビューの中で彼女は一見平和的な独立を主導したジェカノビッチ首相のあざとく老獪な「手法」を「ヒストリーロンダリング」と表現したという。マネーロンダリングならぬ、ヒストリーロンダリング。それは、
犯罪などによって得られた資金が銀行口座を経て洗浄されるマネーロンダリングと同じように、汚れた過去が独立によって洗浄されることを意味している。
それは首相個人のみならずモンテネグロさらには旧ユーゴスラビア全体の民族的歴史(記憶)の書き換えに他ならないだろう。
セリムベゴビッチ=関本が挙げる汚れた過去とは、
その美しさから「アドリア海の真珠」と呼ばれ、世界遺産にも登録(1979)されたクロアチア南部の都市ドブロニクを破壊したミロシェビッチ大統領指揮する旧ユーゴ軍を支持した過去、ボスニア紛争で多くの志願兵を送り込みセルビア人側で戦わせた過去、そしてミロシェビッチが国際的に孤立し始めると反旗を翻し独立へとかじを切った過去、さらにこの5月の国民投票で米コンサルティング会社を使った人気歌手やスポーツ選手を起用したイメージ戦略に基づいて「バラ色の未来」を語ることで民族意識を煽って勝ち取った独立という現在。
汚れた過去もバラ色の未来のイメージに多くの国民が寄り添った事実によって「洗浄」されたと考えるか、汚れた過去はそのまま汚れた現在を意味し、そこにはバラ色の未来どころか暗い未来が胚胎していると考えるか。少なくともセリムベゴビッチ=関本は汚れた過去の本当の「清算」なくしてバラ色の未来は決して訪れないことを確信している。だから彼女はモンテネグロにも戦争犯罪を追求する活動が必要だと考えている。
NHK世界遺産の旅:クロアチア・ドゥブロブニク >> http://www.nhk.or.jp/sekaiisan/card/cardr035.html