歴史

ガジュマルの廻廊:石牟礼道子『常世の樹』

常世の樹 天草上島栖本のアコウの樹、五島福江島の椿、福岡県英彦山(ひこさん)の杉、鹿児島県大口市の桜、熊本県五箇荘葉木の樅の木、熊本県阿蘇俵山のカゴノキ(鹿の子木)、大分県檜原山の千本かつら、大分県高塚の公孫樹(いちょう)、鹿児島県蒲生の樟…

and Film

写真家の鈴木理策さんによる「コダック破綻、とうとう来たか」(「朝日新聞」2012年1月25日)を読んだ。鈴木理策さんはコダックのフィルムや印画紙のやわらかな色調に魅かれた高校、大学時代の古き良き思い出を語っていた。なるほどと思いながら、そのような…

日本の「狂気の歴史」と今

治療の場所と精神医療史作者: 橋本 明出版社/メーカー: 日本評論社発売日: 2010/09/10メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 13回この商品を含むブログ (4件) を見る 本書は、中央政府や帝国大学の専門家が推進した西欧近代の視点からの精神医療のいわば大文…

肩甲骨の天使:ダニエル・エルナンデス-サラサール写真集『グアテマラ ある天使の記憶』

グアテマラ ある天使の記憶―ダニエル・エルナンデス‐サラサール写真集作者: ダニエルエルナンデス‐サラサール,徐京植,Daniel Hern´andez‐Salazar,飯島みどり出版社/メーカー: 影書房発売日: 2004/04メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る グア…

柳瀬正夢、伊藤武雄、原口統三の思い出

餃子ロード作者: 甲斐大策出版社/メーカー: 石風社発売日: 1998/11メディア: 単行本 クリック: 3回この商品を含むブログ (4件) を見る こんな面白い本が絶版のままとは勿体ない。20世紀が間もなく終る頃、甲斐大策は次のように皮肉たっぷりに書いた。 餃(子…

甲斐大策のアフガニスタン彷徨

どうして僕はこんなところに作者: ブルースチャトウィン,Bruce Chatwin,池央耿,神保睦出版社/メーカー: 角川書店発売日: 1999/09メディア: 単行本 クリック: 23回この商品を含むブログ (37件) を見るPenguin Classics Road To Oxiana作者: Robert Byron出版…

越境する民の記録:上方落語「代書」に聞こえる済州島方言

上方落語に「代書」あるいは「代書屋」と呼ばれる演目がある。昭和10年代、 大阪市東成区今里の自宅で副業として今日の行政書士のルーツである代書人を営んでいた四代目桂米團治が、その実体験に基づいて創作した新作落語で、1939年4月初演された。そのなか…

ムグンハ(無窮花)の花の咲くころ

ムクゲ(木槿, Rose of sharon, Hibiscus syriacus) 毎朝、町内のあちこちでムクゲ(木槿)の花が目に留まる。今年は7月23日に初めて見て以来、散っては咲き、散っては咲くのを毎朝見てきた。オーソドックな一重の紫の他に八重の花や、純白の花もある。な…

美しく復讐すること:金石範の場合

ジョナス・メカスの場合だけでなく、自分を含めて誰にとっても、生きることは失われた故郷への遠回りの旅、決してそこには辿り着けない旅だという思いに随分前から取り憑かれている。最近何本かの関心の線が交差したあたりに、済州島四・三事件、そして金石…

追放の高麗人(コリョサラム)の運命

『流転〜追放の高麗人と日本のメロディー〜』(2003年熊本放送) 高麗人(コリョサラム)とは、1937年に「日本人と見分けがつかない」ことを危険視され、スターリンによって中央アジアの地に追放された約20万人の極東ソ連の朝鮮民族のことである。私は姜信子…

記憶と空白:「済州四・三」

以前、民俗的関心から、村上節太郎による済州島の海女の写真について触れたことがある。 村上節太郎(1909–1995)の昭和の写真記録(2010年05月15日) また、歴史的関心から、姜信子さんのいわゆる「済州島四・三事件」にまつわる語りに触れたことがある。 …

合衆国版「狂気の歴史」:写真集『アサイラム』

Asylum: Inside the Closed World of State Mental Hospitals (The MIT Press)作者: Christopher Payne,Oliver Sacks出版社/メーカー: The MIT Press発売日: 2009/09/04メディア: ハードカバー クリック: 3回この商品を含むブログを見る 「アジール」関連で…

写真の真実

次のAの写真の人物をよくご覧いただきたい。 A この人物は、次のB、C、Dの写真の人物と同じ人物に見えるであろうか? B C D 私にはどうしても同一人物には見えない。眉毛の形も唇の形も違う。Aの写真の人物は眉毛は描いたように見えるし、口髭は付…

「道々の者」への挽歌

朝日新聞(夕刊)2010年8月23日 この死亡記事が目にとまった。「『大衆演劇の殿堂』と呼ばれる芝居小屋『嘉穂劇場』」の言葉に惹かれたのだろう。以前読んだ「道々の者への挽歌」である沖浦和光の『旅芸人のいた風景』を思い出していた。 旅芸人のいた風景―…

隼人とアイヌの邂逅

竹の民俗誌―日本文化の深層を探る (岩波新書)作者: 沖浦和光出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1991/09/20メディア: 新書購入: 3人 クリック: 7回この商品を含むブログ (14件) を見る 本書には後述するように隼人の末裔かつ竹細工師である一人の翁の北海道の…

歌姫:遊女の系譜1

『梁塵秘抄』に有名な遊女の歌がある。 遊女(あそび)の好むもの 雜芸(ざふげい) 鼓 小端舟(こはしぶね) 簦翳(おほがささ)し 艫取女(ともとりめ) 男の愛祈る百大夫 『梁塵秘抄』(380) この歌の「鼓・小端舟・簦翳・艫取女」のすべてが収められて…

記録させる記憶:宮本常一の「記憶」と「記録」

『宮本常一が撮った昭和の情景』上巻、170頁、asin:4620606391 これは宮本常一が昭和37(1962)年夏、山口県萩市見島の宇津で撮影したもの。「漁網の上でうたた寝をする男の子。海の子はこうして育つ」というキャプションが添えられている。見島とは山口県の…

佐渡の地蔵堂

佐渡へのオマージュ(2010年08月03日) 上のエントリーを書いた時、村崎修二さんが2000年の夏に佐渡の旅の途中で「無住のお寺ともお堂ともつかない建物」のお陰で、ちょっと大げさに言えば、命拾いした、その「お堂」のことが気にかかっていた。偶然とは思え…

伊夜日子大神だった

先日、室蘭市の廃社された本町神社の祭神名が判読できないと書いた。 廃社された本町神社。由緒未詳。「伊*白子大神/稲荷**」? 判読できない。 電信浜(2010年07月13日) それをたまたまご覧になったご近所の上野さんが『新室蘭市史』の第三巻、802頁に…

アウラ

そもそもアウラとは何か。空間と時間の織りなす不可思議な織物である。すなわち、どれほど近くにであれ、ある遠さが一回的に現われているものである。夏の真昼、静かに憩いながら、地平に連なる山なみを、あるいは眺めている者の上に影を投げかけている木の…

藻岩犠牲者の碑

帰宅途中、藻岩犠牲者の碑(北電藻岩発電所建設工事犠牲者の顕彰慰霊碑)に立ち寄った。遊歩道が整備された山鼻川の河川敷の一角にある。所番地は札幌市中央区南30条西10丁目。建立されたのは1994年6月11日。近づくと、ライラックに似た甘い香りに包まれた。…

消え行く旋律に耳を澄ますジェラルド・グローマー

宮成照子編『瞽女の記憶』(桂書房、1998年) 宮成照子とジェラルド・グローマー(Gerald Groemer) 前書(『越中瞽女と母の在世ご利益』を指す)を世に出したことでたくさんの方とまた新たに出会うことができました。今度の本の中に転載を許していただいた…

反復と原郷、春駒の唄

旅芸人のフォークロア―門付芸「春駒」に日本文化の体系を読みとる (人間選書) 群馬県利根郡川場村門前に「春駒」が残っている。「村の青年団が中心になってこの春駒を伝承し、自分たちで百十一戸ある村のすべての家を門付して回っている」(7頁)という。し…

舟の家/廓舟(くるわぶね)

螢川・泥の河 (新潮文庫) 宮本輝の小説「泥の河」(1977年)に舟の家に暮らす家族が登場する。昭和30年代の民俗、風俗、特に家船(えぶね)への関心から久しぶりに読み返した。読んでいるうちに小説の力、あるいは物語る視点が気になり出して、民俗、風俗的…

徳永進の「野の花診療所」と「こぶし館」

ハンセン病―排除・差別・隔離の歴史 沖浦和光と徳永進が共編した本書は、2001年5月の熊本地裁における「らい予防法人権侵害謝罪・国家賠償請求訴訟」の原告勝訴とつづく政府の控訴断念を受けて、同年11月に緊急出版された。沖浦和光の被差別民に関する著作を…

北前船とおちょろ舟

瀬戸内の民俗誌―海民史の深層をたずねて (岩波新書) 昨日書いたように、 おちょろ(2010年05月18日) 沖浦和光と五木寛之の対話集『辺界の輝き―日本文化の深層をゆく』(岩波書店、2002年)の後半では、北前船の歴史の裏側に「おちょろ」と呼ばれた遊女を乗…

おちょろ

辺界の輝き―日本文化の深層をゆく 五木 むかしは、船の上で春を売る遊女がいたでしょう。 沖浦 「おちょろ」ですね。相手の船を訪問して商売をやるんですね。(『辺界の輝き』153頁) 「おちょろ(舟)」。知らなかった。 先日、尾上太一写真集『北前船』を…

家船(えぶね, Sea Gypsies or Sea Nomads)

風の王国 (新潮文庫)作者: 五木寛之出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1987/04/28メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 9回この商品を含むブログ (21件) を見る かつて五木寛之の『風の王国』を読んだ時に、その参考文献一覧を見て、これはサンカ研究書並みじゃ…

尾上太一写真集『北前船』

北前船―鰊海道3000キロ 尾上太一さんの懐の深い丁寧な写真と言葉がまるで大きな帆に風を豊かに孕ませて海上を滑るように航行する弁才船のようになって、私を礼文島から日本海沿岸を南下して瀬戸内、大阪まで、数百年の海上交通にまつわる記憶を鮮やかに甦ら…

アフガニスタン哀歌(A Lament for Afghanistan)

asin:0195030672The road to Oxiana - Google ブックス 私は評論家としてではなく、一人の心酔者として書いている。この本が私にとっての「聖典」となってから久しい。批判などできるはずがない。十五歳のときに手に入れた本は、中央アジアへの四度の旅にも…