レバノン

イスラエルの地上軍がレバノンに侵攻したとマスメディアで報道された今日、早速田中宇さんのニューズ・メール「大戦争になる中東」が届いた。同じ内容の記事はここで読めます。
田中宇の国際ニュース解説 2006年7月23日 http://tanakanews.com/
マスメディアの報道は、相変わらず国家、宗派、軍事組織等の間の関係という旧態依然たる視点でしか出来事を解読していないから、「なぜ?」という疑問は決して解消しない。そこではイスラエルレバノンの事情、ヒズボラに関する皮相な情報しか手に入らない。田中さんの解説では、その背後でうごめく勢力関係に関する情報が得られる。例えば、前者では宗教的なモザイク国家としてのレバノンの複雑な事情に関する情報は掲載されるが今回の武力衝突の意味を理解するにはほとんど何の役にも立たない。その点で田中さんの解説は、レバノン最有力のキリスト教マロン派とブッシュ政権を支える一大勢力キリスト教原理主義との関係にまで踏み込み、さらにイスラエルの攻撃を支持しているアメリカ内部の事情やイラン、シリアとの関係、イラク駐留米軍の動向にまで及ぶ。

レバノンで最も有力な勢力はキリスト教徒(カトリック系のマロン派)であり、イスラエル軍レバノンキリスト教徒の一般市民の住宅街にも空爆を行っている。レバノンキリスト教徒がたくさん殺されているのに、アメリカのキリスト教原理主義の団体は、殺す側のイスラエルを応援し続けている。(中略)
しかし、今後イスラエルが地上軍をレバノンに侵攻させ、長く苦しい戦いに入ったら、イスラエルはシリアを攻撃することで、アメリカをこの戦争に巻き込みたいという考えを強めるだろう。イランの大統領は「イスラエルがシリアを攻撃したら、イランを攻撃したのと同じとみなし、イランは反撃する」と宣言しているので、イスラエルがシリアを攻撃したら、イランとも戦争になる。
イスラエルがイラン、シリアと戦争になったら、アメリカの政界は、今のように口だけ「イスラエル支持」と言っているだけではすまなくなり、イラク駐留米軍が、イラン軍と開戦する可能性が強まる。イランが戦争に入ったら、原油価格は100ドルを突破する。
このような、アメリカがイラン、シリアとの戦争に入ることこそ、ネオコンが強く求めていることである。ブッシュ大統領がイランとの戦争を回避したいと考え続けても、イスラエルの苦戦がしだいに明らかになり、イスラエルアメリカを巻き込もうとイランの戦争に入る懸念が強まっているため、イラクに軍を駐留させているアメリカが、この戦争から逃れられる可能性はしだいに低下している。

しかし、それでもまだ「分からない」のであって、それを考えると、マスメディアの報道は本当に終わっていると言わざるを得ない。田中さんの解説レベルの情報が得られてはじめて私たちはその根拠やその先を調べたり、考えたりするきっかけを与えられるのであって、その意味ではマスメディアは私たちを思考停止に陥らせるためのメディアに成り下がっている。と、こんなことはネット世界で生き始めている人々にとってはとっくに常識なのだが、思わず書いてしまった。
それにしても、7/12以来、レバノン情勢が引き金になって、さまざまなことが連鎖して、私は憂鬱になった。多くの場所で幾層にも重なる一見もっともらしい口実が幅を利かし、初歩的な愚行をそうと認識し行動を規制する働きが機能不全に陥り、思考放棄状態にすぎない近視的ニヒリズム、勘違いエゴイズムが浸透している。肥大した社会、国家、組織の暴走を食い止めるには、それらを意識の中で自己と同じレベルにまで縮小し、それらと対等な関係において言葉を紡ぎ、行動するしかない、という今福龍太さんの「15年前の予言」(*)を今更ながらに噛みしめいている自分に気づく。そしてその意味では自己と等身大に機能するような「変な会社」を創った近藤さんが見ている「世界」こそが世界の「未来形」なのではないかと思う。

*「十字路の思想」(初出『図書新聞』1991/07/27、『アーキペラゴ』2006に再録)