フィルム補修と詩作:松本圭二氏の痛快

フィルム・アーキヴィスト兼詩人であられる松本圭二さんが『アストロノート』で萩原朔太郎賞を受賞なさったという記事を読んだ。
朝日新聞2006年9月23日朝刊2面
松本圭二さんのプロフィールやお仕事については、公式サイトにも詳しい。
松本圭二 公式サイト tibikuro65」http://www.tibikuro65.jp/
松本さんは日本ではかなり珍しい、私も初めて知ったフィルム・アーキヴィストという肩書きを持つ。それは映画フィルムを補修する専門家のことで、日本で唯一フィルム・アーカイブ機能をもつ福岡市総合図書館に映像管理員として勤務なさっている。新聞記事の中に、見逃せないと感じた箇所があった。

中学生からの映画好き。でも、出身地の三重県四日市市では見られない作品もあった。想像して楽しもうと映画のパンフレットを集めたら、鈴木志郎康吉増剛造ら詩人のエッセーに「不思議とイメージが浮かんできた」。

そんな詩人の言葉と映像の深い関わりにまつわる原体験が、松本さんの詩作への道を準備し、おそらく現在の映画フィルム修復という映像に深く関わるお仕事にもどこかで繋がっているような気がした。
ところで、松本さんの本で現在入手可能なのは、今回萩原朔太郎賞を受賞した自家出版の『アストロノート』(2006年1月15日発行/256頁/定価2500円(税込)/著者:松本圭二/発行者:松本圭二/出版社:「重力」編集会議)のみであり、しかも公式サイト上から注文するしかない。他の本は下記の通り、痛快なことに品切れか絶版である。


  • 詩篇アマータイム』(2000年8月15日発行/103頁/定価2,100円(税込)/出版社:思潮社/著者:松本圭二/発行者:小田久郎)<品切れ>

  • 『詩集工都 The Vanishing Poems』(2000年7月28日発行/412頁/定価3000円(+税)/出版社:七月堂/著者:松本圭二/発行者:木村栄治)<品切れ>

  • 『詩集・未製本普及版』(1996年5月1日発行/412頁/定価5000円(税込み)/発行所:アテネ・フランセ文化センター/著者:松本圭二/発行者:山本均)<絶版>

  • 『詩集 THE POEMS』(1995年6月1日発行/412頁/定価20000円(税込み)/制作:七月堂/著者:松本圭二/私家版)<絶版>

  • 『ロング・リリイフ』(1992年1月1日発行/108頁/定価1800円(税込み)/出版社:七月堂/著者:松本圭二/発行者:木村英治)<品切れ>

もっと痛快なのは、『詩集・未製本普及版』の去就に関する公式サイトでの解説である。

私の二冊目の「詩集」は、版元とのトラブルによって五十冊のみが製本されただけで、残りは製本されぬまま。つまり紙の束の状態で、その部屋に運び込まれていた。部屋の片隅に白い紙の山ができていた。それはふたたび書物の形へと夢見られることもなく、また処分することもためらわれたまま、長く私の部屋に居座り続けた。やがて、私には製本された五十冊が偽物であり、この巨大な紙屑こそが本来の姿であると思われた。つまりそれは、私自身の外部の形象として見られていたのである。(「sagi times01」より抜粋)

負け惜しみの気持ちがなかったとは言い切れないだろうが、しかし製本されなかったおかげで、書物になれなかった「白い紙の山」、「巨大な紙屑」に「詩の言葉」が生きる本来の姿、実在する書物という形態をとらない<書物的時空間の雛形>の可能性を松本さんは垣間みていたのではないだろうか。私は勝手にそこにネット上の未だ定義困難な時空間を重ねて見ようとしている。