徳永康元の『ブダペストの古本屋』(asin:4770404867)が届いた。残念ながら、千野栄一の『プラハの古本屋』(asin:446921096X)を手に入れた古本屋に在庫はなく、他所に注文してあった。しかし、私の部屋が「古本屋」みたいなもんだと考えれば、そしてその二冊を並べて置けば、千野先生の願いの残り半分も叶ったことになるだろう。
今の私の願いは、この本が数多くの読者に愛され、捨てられることなく古本屋に売られ、そこで徳永先生の『ブダペストの古本屋』と並んで飾られることである。もしこのようなお店が発見できたら、弟子としてこの上ない光栄であろう。 1987年2月 千野栄一
『プラハの古本屋』283頁
千野先生は天国でさぞやニヤニヤしておられることであろう。
徳永康元著『ブダペストの古本屋』は1982年に恒文社(http://www.ko-bun-sha.co.jp/)から出た。表紙の題名と著者名の手書き風の書体がなんとも味がある。遠く映画の手書き字幕文字を連想した。ちなみに、私は字幕フェチである。装幀は雨宮一正とあるが、未詳。本書はハンガリー文学に関するもの、近年のヨーロッパ紀行、第二次大戦中のハンガリー滞在記、古本についてのエピソード、身辺雑記と回想、などの文章からそれぞれ数篇を選んで編まれた一冊であるという(「あとがき」236頁)。ぱらぱらと捲っていて、「場末の映画館」(202頁〜204頁、初出『岩波ホール(15)』昭和44年7月)という小文が目にとまった。徳永先生の高校生時代、昭和初年の東京で、場末の映画館をまめに見歩いた「回想」である。その冒頭の一節に「パテ・ベビー」という知らない言葉が登場した。
旧制中学の四年生の時まで、家庭用の九ミリ半のパテ・ベビー以外、私は映画というものを見たことがなかった。ちょうどその頃、友達に切符をもらって、千駄ケ谷の日本青年館で催された或る映画鑑賞会へ出かけ、そこでたまたまムルナウの「サンライズ」を見たことが、私を映画の世界へ溺れ込ませるきっかけになった。
202頁
パテ・ベビー? 調べてみたら、1923年にフランスのパテ社が発表した9.5ミリ幅のフィルムによる小型カメラと映写機の商品名だった。日本には早くも翌1924(大正13)年に家庭向けとして輸入され、戦前1940年頃まで流行したという。へー、色んな意味で、なるほど。パテ・ベビーの詳細は下の各ページで。
また、ムルナウの『サンライズ』(1927)と言えば、後にトリュフォーが「世界一美しい映画」と絶賛することにもなるサイレントである。YouTubeでその断片をいろいろと見ることができる。
SUNRISE (MoC trailer) F. W. Murnau
つい最近、PreBuddhaさんが『サンライズ』を詳しく取り上げていた。
参考: