盲目の写真家ユジャン・バフチャル:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、19日目。


Day 19: Jonas Mekas

Friday Jan. 19th, 2007 5 min. 38 sec.

In Paris, I meet
Evgen, an inspiring
blind photographer
who gives me
unique insights
into the visual world
of the blind.

パリで、私はユジャン(Evgen)に
会う、霊感に溢れた
盲目の写真家
盲人の
視覚世界に関する
独特の洞察を
私は学ぶ。

パリのカフェでお茶しながら、リラックスした雰囲気のなかで談話が続く。ユジャンはスロベニア語、クロアチア語、ロシア語、イタリア語、フランス語、スペイン語を自在に話し、英語はやや苦手なようだ。ユジャンはフランス語でしゃべり続ける。ビデオカメラを持ち、メカスと通訳を兼ねた若い同席者を撮影もする。メカスの帽子に、同席者の頭に手が伸びる。触れて確かめている。伝説的なボレックス(Volex)のカメラを手渡されたユジャンの赤児を扱うような繊細な手と感嘆の声は圧巻である。この人は「手で見ている」と思わせる。談話はほとんどフランス語で進む。若い同席者が一部英語に通訳している。

実は今日のフィルムは、その素性不明の同席者(パリ在住のメカスと親交のあるカメラマンか)が非常に気に入っていることが窺える素敵な色合いと質感のスカーフの由来を、おそらく彼の自宅アパートで、説明する意味深長な短い場面から始まる。それは中国人の友人から誕生日の贈り物としてもらったスカーフで、彼女の二人の姉妹が織ったものだという。しかも二人とも盲目だと。盲目の姉妹による手織りのスカーフ。そこに、すでに「手で触れることが見ることである」ような盲人の視覚世界への「入口」が示されている。

1946年スロヴェニア共和国生まれの盲目の写真家ユジャン・バフチャル(Evgen Bavcar)については、『ZoneZero from analog to digital photography』のGALLERYのEvgen Bavcarのコーナーで、彼が「夢の鏡(mirror of dream)」と称する独特の印象的な「写真」と、彼の短い自己紹介ビデオ(スペイン語、英語字幕)を見ることができる。

ウェブ上にユジャン・バフチャルに関するまとまった日本語情報は存在しないが、ブログ『好きになった』に要領を得た部分的な翻訳紹介がある。
2007年01月17日 - 「見えない光」
http://hisamichi.seesaa.net/article/31544692.html

目から入ってくる情報が遮断されると、他の感覚が総動員されて、ある種の視覚的イメージが構築されるのだろう。それをユジャンは「夢」みたいなもので、撮影した写真はそんな夢の「鏡」だと言う。いうまでもなく、彼は自分が撮った写真を見ることができない。シャッターを切るまでの「夢」の時間が、彼にとっての「写真」であり、シャッターを切った瞬間にそれは、わたしたちにとっての「写真」になる。それは私の夢の鏡なんだよ、と彼が言うことはよく分かる気がする。