ジョナス・メカスによる365日映画、54日目。
Day 54: Jonas Mekas
Friday February. 23rd, 2007
14 min. 28 sec.
In the winter
storm --
a sparrow is
saved --
冬の
嵐のなか
一羽の雀が
救助される
メカスと共に札幌なみの吹雪のなか、私はニューヨークの下町を歩く。今シーズン私が札幌で何度も体験した感覚が蘇る。吹き付ける風の音、雪の冷たさが蘇る。メカスが鼻をすする音が聞こえる。雪、雪、雪。雪で見違える街の細部をカメラは捉える。メカスの鼻歌が微かに聞こえる。楽しんでいるのが分かる。「雪はどうだい?」とでも声を掛けるかのように、丈の低い木に近付く。
フェンス越しに雀たちの鳴き声が合唱のように大きく聞こえ、LIZ CHRISTY GARDENという看板を過ぎたとき、前方で若い男女のカップルが何か異変に巻き込まれているのが見える。一本の街路樹の枝に雀よりは一回り大きく見える小鳥が脚をとられて、もがいている。飛び立とうとするが、脚が枝から離れない。女性が何かを踏み台にして、その小鳥に手を伸ばす。届く距離だ。小鳥は怯え、甲高い鳴き声を発し続ける。鳴き声からいっても雀ではない。彼女は咄嗟の判断で、小鳥の脚がとられている枝ごと折った。
小鳥の脚は枝に糸でがんじがらめに固定されているようだ。理由は分からない。とにかくその糸を解かなければならない。運良くメカスは万能ナイフを携帯していた。それを受け取った女性はナイフとハサミを器用に使い、がんじがらめの糸を、小鳥の脚を傷つけないように、少しずつ少しずつ切る。キーキーキーキー泣き叫び羽ばたこうとする小鳥の体を男性が動かないように両手でしっかりと包み込むように支えている。誰かの悪戯か、偶然の重なりか、どうしてこうなったかは分からない。
とにかく若いカップルの共同「手術」のような注意の集中を要する糸の切断作業が続く。その間雪は容赦なく二人の上にも降り積もる。二人とも両手がかじかんでいるに違いない。「手術」が無事終わり、小鳥が解放される。脚は折れていないようだ。手術中女性が小鳥に向かって言った「(あなたは)ラッキーね」という言葉が印象的だ。彼女はメカスにも感謝の言葉を述べる。三人の協力による「雀」救出作戦はこうして成功した。
その場を去って、再び雪の歩道を歩き始めたメカスのカメラはほぼ前方を捉え続ける。20cmは積もっている。雪のせいか、通りの車の往来は少ない。通りを横断しながらカメラは最後に真っ白な雪の通りそのものを捉える。
この雪の道はメカスの心なかではリトアニアにつながっていたに違いない。