ジョナス・メカスによる365日映画、3月、84日目。
Day 84: Jonas Mekas
Sunday March. 25th, 2007
8 min. 30 sec.
Phong tells us an
annecdote about
being drunk,
very very drunk --
フォン
は泥酔の奇談
をわれわれ
に語る
アンソロジーのオフィスで、フォンがジョークを含んだ奇談を披露する。
正確に思い出せるよ。2001年の冬、あれは11月、感謝祭の前のことだった。ブルックリン・レイルズの発刊準備で大忙しの時期のこと、ある晩遅く飲みに出て、「モフィート*1(Mojito)をしこたま飲んで酔っぱらった。すごくいい気分で、雪の中、車を置いて歩いたんだ。経験あるかい、ジョナス?本当にすごくいい気分で、何て言ったらいいか、アルタード・ステイツ(意識変成状態)さ。自分が歩いているのが信じられないんだ。分かる?世界の外側にいる気分さ。世界の中を見ているんだ。自分が世界の中にいないんだ。現実に歩いている感じがしない。でも、雪で滑るし、気をつけて、ゆっくりゆっくり歩いたんだ。
で、グリーンポイント(Greenpoint)のメセロール通り(Meserole Ave.)で一軒のポーランド人がやってるバーに入ったんだ。午前3時前だった。他に客は一人だった。俺はブッシュミル(Bushmills)を注文した。その客は多分俺よりも酔っぱらってた。でも、俺は彼にブッシュミルをおごったんだ。そしてこうやって乾杯した。そのとき、彼は二人の酔っぱらいのジョークを話してくれたんだ。それは素晴らしい、その場にいた俺と彼の一種の比喩みたいなジョークさ。分かるよね、ジョナス?お望みなら、彼の顔は絵を描けるほどちゃんと覚えてるよ。
とにかく二人の酔っぱらいはバーを出た。ふらふらしながらゆっくりと歩いた。そしてある街角で立ち止まった。一人が指差して言った。「おい、今夜は月が綺麗だぞ。」もう一人が異論を唱えた。「何言ってる。あれは外灯だ。」それが月か外灯かで議論が二十分ほど続いた。そこに第三の酔っぱらいがやってきた。舗道を這ってね。二人よりも酔っぱらっている。一人が彼にあれは月か外灯か訊ねた。彼は答えた。「俺に聞くな。この辺りのことは俺が教える。」
ここでフォンは腹を抱えて笑い出す。素晴らしいジョークだろう。俺は歩いて家に帰った。俺にとっては意味深い体験だったよ。そのジョークのポイントは、とメカスが受け笑いしながらフォローする。お前さんは文明からも文化からも離れて、アイデンティティをすべて奪われた状態だったんだ。言わば存在の原点にいた。その通り、とフォン。個性(individuality)を失っていた、ある意味でね。だから隣の人物と等価なんだ。人が集まると、そこには色んな個性(character)があるだろう、とフォンはセバスチャンに諭すように言う。頭数(number)だけの違い…、とセバスチャン。そうだ、仲間(number)、とメカス。
すると急に強い口調で、君はエピクロス派(Garden number)*2だよ、ジョナス、とフォン。それに対してメカスもすかさず、お前さんはファック派(Fucking number)さ、と切り返す。そう、その通り、と認めるフォン。
話はフォンの奇談から逸れてフォンとメカスの人生哲学をめぐる議論へと発展しかけたところで途切れる。
*1:ヘミングウエイも愛飲したというペパーミントの葉たっぷりのラム酒。
*2:http://arcadissima.cool.ne.jp/Epicuri_Grex/参照。特に「思想」の「友情」の項目。