情報文化論2007 第2回 生命と情報

受講生のみなさん、こんにちは。
先週の第1回目の講義はどうでしたか。難しかった?心配しなくて大丈夫です。だんだん慣れていきますから。

「講義のあとさき01」(「1コンプレックスの解消法、2楽しむ術、3情報の整理術)」でも話したように、何事でも「慣れる」、「なじむ」、「気長に付き合う」ことがたいせつです。そうすれば自ずから色んな事が見えてくる、分かってくるものなんです。

前回は初回ということもあり、「第1回 情報文化論とは何か:情報は編集される」を敷衍(ふえん)しながら、この講義の概要と目的について解説しました。「難しい」と感じたとすれば、それには二つの理由が考えられます。ひとつはこの講義が相手にする「情報」が森羅万象、宇宙大のスケールとスパンに関係するからです。でも、「慣れ」ですよ。もうひとつは、余りに身近すぎる自分の中で起こっていることでもあるからです。現に今、これを読んでいるときにも、あなたの中で、主に脳で起こっていること、つまりあなたがほとんど無意識にやっていること、「情報の編集」ってやつね、を立ち止まってよく見ることは、難しくて当たり前なんです。

でも、私たちは意識せずにかなり高度な情報の編集を行っていることに気づいたと思います。私が数十分間、数千語しゃべった内容の要点を数語でメモした皆さんは、「要約」という情報の圧縮を行ったわけです。その数語は数千語の情報の塊への索引、引き金として役立ちます。後にその数語を見れば、数千語の情報をなんとか再生=想起することが可能なわけですね。また、私が、宇宙史、生命進化史、ヒトの誕生、人類史、現在と語ったときに、皆さんがそれぞれの言葉からその都度頭に思い浮かべた言葉、イメージが沢山あったはずです。それは「連想」と呼ばれる情報の連鎖、拡張です。私が語った一語から数十語の連想を何度も体験したはずです。それはいわば無言の対話のようなもので、そのようにして言葉を介して、情報はそのつながりを色んな方向に伸ばそうとしているわけです。つまりは、私達はほとんど意識せずに、要約と連想という編集の二大機能を駆使しているわけなのです。それは実は凄いことなんです。そのような編集を方法や術として自覚して使いこなせるようになるレッスンは、秋学期の「情報デザイン論」で予定しています。

さて、前回確認したように、この講義ではそのような編集の素材になる「情報」そのものの歴史や起源をできるだけよく知ることを目指します。

そういうわけで、今回は、私たち人間の情報のルーツを一気に生命の起源、さらには宇宙の創成にまで遡り、いわば情報の歴史の序章を見ることにします。私たちがいまここに存在するに至るもっとも長い歴史を垣間見て、私たちがいまここに存在することの意味の一端をとらえるもっとも大きなスケールの視野を学びます。インターネットに関する雑談も予定していますが、原則的には以下のようなレジュメにそって解説、敷衍します。

情報文化論2007 第2回 生命と情報:情報の起源と情報生命システム


1DNA
人間のDNA=ヒトゲノムは約30億文字の膨大な情報量からなる。
ヒトゲノム計画(1990-2004)で2万数千の遺伝子が特定された。
ミトコンドリア・イブの発見
   遺伝的起源(最初の人類)の研究(統計遺伝学+分子人類学)
DNAは全生物に共通のコードで書かれたテキストのようなものである。
DNAに「情報の起源」を遠望することができる。
 ヒト→サル→高等哺乳類→下等哺乳類→両生類→爬虫類→魚類→
 棘皮類→腔腸動物プランクトン→藍藻→…→単細胞生物(→ウィルス)→X
遺伝情報の起源は?

2ビッグバン理論
 大前提:宇宙は膨張し続けている。光速度は一定である。
 ”無”の中に特異点が出現して、それが連鎖的に爆発して、宇宙大のスケールに向かって変化する。
 150億年前の宇宙創成時の輻射が現在マイクロ波として地上に届いている(バックグラウンド輻射)
  情報は必ず遅れてやってくる
 宇宙の「晴れ上がり」(宇宙のヘリ)以前の宇宙を地上からはみることはできない
  情報は光とともにやってくる
  光(電磁波)を伴わない時空の情報は知り得ない
   ブラックホール(強力な重力場)の”中”は観測できない
 宇宙の姿を情報としてとらえる限界がある
  どんな情報も発信源のすべてをつきとめることはできない
 情報の宇宙的起源の最も遠い消息は見えない
 我々の中には不可知の情報が流れている

3情報生命の誕生
 情報の種は、粘土にメタ・プログラムの痕跡を付ける(逆鋳型)。
 これを転写して、情報の鋳型をつくる。
 この鋳型にしたがって情報生命が再生されるしくみができる。

エントロピーと秩序の形成
 膨張する宇宙の中では、エントロピーは増大する。
 ところが宇宙の中心を遠く離れた局所系では、カオスからゆらぎが生じ、
 自己触媒による組織化がおこってエントロピーが減少する。
 情報生命は、このような局所系に誕生したと考えられる。

5生命とは何か?
 情報をつくりだすシステム
 混沌(カオス)から秩序を生む
 情報とはカオスの中に秩序を見つけようとする動向である

6生命系の中の情報編集
 主役はDNA(”データベース”)ではなく、RNA(”情報編集子”)
 生物のメタ・プログラム(意識を超えた活動)
  1遺伝子の戦略、2生体組織の設計、3競争と適応の実験、4外部情報の摂取
 生物の四段階進化
  1分子進化→2機能進化(摂食、運動)・形態進化(外骨格、有翼化、哺乳化)
  →3情報編集進化(神経系発達、中枢神経系発達)→4情報管理進化(大脳)
 生物の進化戦略
  1酸素供給作戦→2摂食機能・運動機能→3魚介類の発達
  →4神経系づくり→5上陸作戦→6両生類・爬虫類
 植物独自の進化戦略
  性(雌雄)の分離(胞子から種子へ):同系交配から異系交配へ
 動物の三つの進化シナリオ
  1外骨格化(多様なデザイン、神経系の圧迫)
  2有翼化(恐竜のように絶滅しないように)
  3哺乳化(ヒトの戦略)
   中枢神経系の発達、ヒトにおける大脳の充実
    どんな動物よりも情報をたくさん外部記号に置き換えられるようにした
    人類は外の世界に自分の情報活動の記号をつくり、扱えるようにした
    言葉や道具などのコミュニケーション・ツールをつくった

7ヒトの誕生
 情報文化は脳を舞台に展開する
 ヒトはどのように誕生し、”意味の動物”になっていったか?