情報文化論2007 第4回 魔術の起源と文字の発生

受講生の皆さん、こんばんは。連休はどうでしたか。明日から授業再開です。名残り惜しいかもしれませんが、ここは思い切ってモードを切り替えましょうね。大学の授業も知的に遊び尽くす術を身につけましょう。私はご覧の通り、一見いつもと変わり映えしない生活を送ったように見えるかもしれませんが、随分いろいろと中身の濃い体験を積んだ連休でした。多分、連休前とは違う「三上」が現われると思いますから、お楽しみに(笑)。

次回は、第1回〜第3回を「情報の外部化にいたる歴史」という観点から簡単に振り返ってから、人類史の第1章ともいうべき、「第4回 魔術の起源と文字の発生」に入ります。ここに予めレジュメを載せておきますから、興味のある人は読んで復習、予習(つらつらと想像)しておいてください。

先ず、「第1回〜第3回のまとめ:情報の外部化にいたる歴史」です。

第1回〜第3回のまとめ:情報の外部化にいたる歴史

1 生命の発生=情報の歴史の発端

2 生命系の役割
 「情報の種子」を地球環境の中で長い時間をかけて保存し維持すること
 宇宙のエントロピーの増大に逆らって、情報をなんとか高分子状態にして運ぶこと

3 生物進化の二つのポイント
 自分自身を複製するためにDNAなどを使って遺伝情報を操作すること
 外界からの情報を選択し、生体に有利な情報処理システム(「自己編集化システム」)を開発すること
  原始的な神経系→中枢部門+端末ネットワーク→脳

4 生物としてのヒトの条件
 虚弱さ:牙も爪も貧弱、毛皮は薄れ、走力も跳躍力も著しく退化
 肥大した脳→ことば(ヒトザルとヒトを分けた)→オラル・コミュニケーションの成立

5 言葉の発生と展開
 外界から入力された情報に応じて内部のシステムが新しい分節を形成することによる
 特に発声は咽喉部や舌部の急速な分節力による。
 ヒトは発声のしくみに手指の分節をたくみに対応させた→脳を刺激した
 ヒトは思考をほとんど同時に追認する方法と、その追認をしばらく記録しておくことをおぼえた
 ヒトは言葉を使いながら、手指を使って線条、輪郭を描くことを思いついた
 →生命系の外側に情報を保存することが可能になった

6 文字の発生
 氷河が後退し世界が一気に温暖化→定住、農耕
 文様をつくる→文様を分類しながら図標や絵文字をつくる→文字のセットをつくる
 (中国語の「文化」の意味:文様や文字を使ってみる)

7 まとめのまとめ:情報の歴史はだんだんに分岐してきた
 7-1 アミノ酸を組み合わせた高分子状態で情報を運ぶだけ
 7-2 環境からの刺激を取捨選択する必要から神経系が少しずつ発達した
 7-3 中枢系がつくられ、「分節可能性」=「意味」が生じた
 7-4 記憶部門、表現部門がつくられた(→神経ネットワークの多重化)
 7-5 声の多様化にともなう手指の分節化が進み、文様、文字の発生→情報の外部化
 7-6 声と文字の多様化は地球上でまったくばらばらにおこった
   →多様な民族と言語、コミュニケーションの手段と文化の成立

次に、「第4回 魔術の起源と文字の発生」です。

第4回 魔術の起源と文字の発生

1 魔術の歴史
 線刻→文様→輪郭→土器→文字

1-1 魔術
 「思い」(観念)を表現、実現する技術
  雨乞い、土偶、洞窟画(アニマル・マスター)
  言葉→言霊、呪力(『古事記』、エジプト神話)→お札、護符

1-2 輪郭の発見
 洞窟画=線画……マドレーヌ文化(20000年〜15000年前)
  輪郭図が実在(鹿や牛)を喚起する
  計画(一族の充実)の発生
  意味の保存→交信手段

1-3 リズム文様
 リズムを刻んだ線
  直線、螺旋……ムスティエ期(35000〜30000年前)の終わり頃
  雷文、螺旋文……マドレーヌ文化期後期、縄文土器に押型文が普及

1-4 部族、民族の形成
 文様がアイデンティティのシンボル、一族のトーテムになる
 文様が呪力をもった……「観念技術の部族化」
 コレクティブ・ブレイン(集合脳)
  一族全体がひとつの考え方、その表現技術をもつ状態
   柿本人麻呂→「柿本」一族
   空海の一族=佐伯一族=サヘギ一族
   バルバロイ古代ギリシャ
   鴃舌(中国)

1-5 文様戦争
 縄文土器の文様は一族のアイデンティティ
 文様が秘める呪力の競争(戦争状態)
  相手の壷や土器を破壊する
  萎えて自分たちで壊す
 一族の勢力が安定、持続
  文様→旗、家紋、エンブレム

1-6 新石器時代
 多種多様な石器、ありとあらゆる食糧の探求
 人類は自然を学習し、南北アメリカ大陸から太平洋の島々まで、移動しながら散っていく。
 →多様な人種と言語が生まれた。

1-7 威信財(ステータス・キット)としての土器
 氷河の後退(約15000年前)→大型動物の激減→食料危機
 (洞窟画、シャーマニズムの発達)
 小麦自生地→ナトゥフ文化(西アジア最古の器文明)
 ヒプシサーマル→原始農業(小麦農耕)開始→彩陶土器、縄文土器
 土器は魔法の器→集団の力を象徴する形状と文様(着物にも)

2 文字の情報文化史
 文字の使用→言語の公用化
 一定の文字の組み合わせ→特別の呪力(神)

3 世界最古の文字
 ウルク原文字の出現
  ウルク都市国家群(シュメール人)BC3200
  小麦を大量生産、輸出入、加工する経済システム形成
  簿記の発明

4 シュメール文字の発展
 ウルク原文字(BC3200)
 楔形文字形成(BC2300)→セム語化→アッカド語→『ギルガメッシュ』(世界最古の叙事詩
 横書きへの変換(BC1700)

5 古代エジプト象形文字
 ヒエログリフ(神聖文字BC3100)
 ヒエラティック(神官文字BC1500)
 デモティック(民衆文字BC800)

6 民族言語の分類
 世界の語族
  ハム語族、セム語族インド・ヨーロッパ語族ウラル語族アルタイ語族
  シナ・チベット語族、南アジア語族、ドラヴィダ語族、マライ・ポリネシア語族、
  アメリカ・インディアン語族、アフリカ語族
 インド・ヨーロッパ(印欧)語族
  ゲルマン系…英語、ドイツ語、スウェーデン語、デンマーク語、ノルウェイ
  ラテン系…フランス語、イタリア語、スペイン語ルーマニア語
  スラブ系…ロシア語、ポーランド語、セルビア語、ブルガリア
  ケルト系…ケルト語、ブリトン
  ギリシア系…ギリシア
  アーリア系…サンスクリット語、ペルシア語
 日本語、朝鮮語
  アルタイ語族ツングース系、タミール語との類縁関係仮説、南アジア語とアルタイ語の混淆仮説
  南アジア語の要素が強かった縄文語にアルタイ系の言語が乗って包んだという仮説
 シナ・チベット語族
  中国語、チベット語タイ語ビルマ
 南アジア語族…ベトナム語
 セム語族アラビア語ヘブライ語アッカド語アッシリア語、フェニキア
 ハム語族…エジプト語

7 文字の系統の4大起点
 1甲骨文字→漢字(黄河周辺)
 2インダス文字ブラーフミー文字(インダス周辺)
 3シュメール楔形文字→古アラム文字(メソポタミア周辺)
 4エジプト象形文字セム子音文字(エジプト、地中海周辺)

(補足)
 インド:ヒンディ語中心+800言語
 ユダヤ人とイスラム教徒:セム・ハム語族ユダヤ教キリスト教イスラム教を作った
 文明:都市と市場をもった広域情報システム
 文化:多様性を克服した情報モード