ジョナス・メカスによる365日映画、5月、148日目。
Day 148: Jonas Mekas
Monday May 27th, 2007
8 min. 18 sec.
Abt Brothers
Lumiere; Pasteur
tells that wine is
best medicinal
drink; and more---
今日のフィルムはオムニバス形式。わずか八分余りの間に場所も年代もバラバラの七つのシーンが繋げられている。メカスの糸=意図が見えない。
1.Le Grand Cafeでリュミエール兄弟の偉業を讃えて赤ワインで数人の仲間と乾杯するメカス。映画の生誕を祝う「Happy birthday to the "Cinematographe"」という公演がリュミエール兄弟によって1895年12月28日にこのル・グラン・カフェのインディアン・サロンで行われた。
2.アイリッシュ・バーらしき店のボックス席で、聞き慣れない言葉で開いた本のあるページの詩形に見える箇所を読み上げる少女。父親と母親らしき二人と青年一人が笑顔で彼女の朗読に耳を傾けている。読み終えて閉じられた本の表紙が見える。
AN DUANAIRE
1600-1900
Poems of the Dispossessed
SEANÉ TUAMA
THOMAS KINSELLA
asin:0851053645
アイルランドの詩人トーマス・キンセラ(Thomas Kinsella, 1928)が翻訳して編んだ古い北アイルランド(Ulster)のエピック(叙事詩, epic)集だ。少女が読み上げたのはオリジナルのゲール語(Gaelic)の詩だったようだ。「家を土地を奪われた人々の詩」。
3.アンソロジー・フィルム・アーカイブズのオフィスで、現在よりも少し若く見えるメカス。隣にやはりまだ幼さの残る顔のベン・ノースオーバーがいる。古い仲間二人と「新しい生活の誕生」、「新しい夢の誕生」について語り合うメカス。
4.とあるカフェのカウンター奥の壁に、あのフランスの化学者パスツールの顔写真と次のようなパスツールの言葉が印刷されたボードが掛けられている。
LE VIN
EST UN ALIMENT
burez du VinLe Vin est la plus saine
et la plus hygienique des
boissons.
PASTEUR
ワインは一番健康的で衛生的な飲み物であるというパスツール先生のお墨付き、というわけで、メカスは白ワインを一口飲んでご満悦の様子。
5.アンソロジー・フィルム・アーカイブズのオフィスに少年少女が集まっている。高校生のように見える。一人の男の子が英語は英語でも、ラテン語かフランス語のようにも聴こえる滑らかな英語で、短いテキストを暗誦する。中英語期のテキストの金字塔といわれる、14世紀のチョーサー(Geoffrey Chaucer, ca1343-1400)『カンタベリー物語』(The Canterbury Tales)のような気がする。チョーサーが用いたのは「ロンドン」方言、「東イングランド」方言といわれ、ゲルマン詩の頭韻ではなく、ラテン系の脚韻を用いているという。ちなみに、中英語から近代英語への大母音推移がなければ、われわれは中学校の頃からこんなに英語の発音で悩まされることはなかったろうに。
6.ダウンタウンの人気のない浦ぶれた通りで、大きなバックパックを傍に置いた一人の男が、これからトリックをお見せしようと言う。三つ数えたら、両手が片手になる、と言って、ワン、ツー、スリー、で右手を右足の下に入れて、左手を上に掲げて、どうだ、片手になったぞ、と叫ぶ。ぱっとしないトリックだが、メカスは「いいぞ」と褒めている。
7.一昨日も登場した庶民的な印象のフレンチ・レストラン、ルシアン(Lucien Restaurant)の店内から、イルミネーション・ランプが周囲に施された窓越しに夜の街を望む。二台のイエロー・キャブが見える。セバスチャンがエスプレッソを飲みながら、外を眺めている。店内には女性歌手のフレンチ・ポップスが流れる