Who is Elizabet?:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、7月、191日目。


Day 191: Jonas Mekas
Tuesday July 10th, 2007
3 min. 26 sec.

c. 1955 I filmed
Billy Graham
at Madison Square
Garden
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1955年ころに
マディソン・スクエア・ガーデン
ビリー・グラハム
撮影した

画面は暗いまま、メカスのナレーションが入る。

1955年頃のこと、ビリー・グラハムの話を聞いたことがある。
彼がニューヨークに来たんだ。

ここで、セピア色の無声の映像が始まる。広い会場に正装した男女が大勢集まっている。

彼のことは少しは知っていた。
あなたは何も知らないかもしれない。
彼はニューヨークにやって来た。
彼にとってはたぶん初めてのニューヨークへの旅だった。
私は彼の撮影に挑戦した。
というのも、私は映画ジャーナリズム(Film Journalism)の訓練をしていたからなんだ。
これがそうさ。

起立した人々は皆同じように聖書らしき本を持って、一斉に口を動かしている。

これはフッテージ(未編集の撮影フィルム)なんだ。
(カタカタカタカタとフィルムが回転している音が聴こえる。)
ああ、色がずいぶん褪せてるなあ。
でも、これに何かが見えるはずさ。

ビリー・グラハムらしき男が壇上で演説している。

後で、友達のエリザベートとその時のことを話したんだ。
彼の話には非常に説得力があって、真に迫るものがあった。
非常にまっすぐで誠実で直接的だった。
キリスト教の特殊なレトリックの圏域の中に人々を引き込んでいた。
彼は特別だった。何も悪いところはなかった。
そんな彼を信じることがそこに居合わせた人々にとってのすべてだった。
彼らは皆そこから何かを得たんだ。

ここでうら若い女性の顔写真が写る。エリザベートだろうか。不明。

それだけさ。彼はうまくやった。……。

ビリー・グラハム(Billy Graham / William Franklin Graham, 1918-)は米国プロテスタントキリスト教の最大教派である南部バプテスト派(Southern Baptist Convention)に属する、アメリカで最も著名な福音派Evangelicalism)の伝道師である。大規模な連続伝道やテレビを使った大衆伝統で有名である。Wikipediaによれば、メカスが撮影したマディソン・スクエア・ガーデンでの伝道は正確には1957年のことで、16週間にわたったという。

南部バプテスト派は思想的にはキリスト教右派的なキリスト教原理主義(Fundamentalism)の傾向が強く、共和党の重要な支持母体である。

メカスは語りたいことを語っていない、古い色褪せた無声のフッテージそのものによって、またイントネーションやアクセントやポーズや笑い声や聞き取れない発音によって本当は語りたいことを語らずに示唆しているように感じた。それにしても、最後に唐突に見せた写真の女性は誰だろう。