her best smile:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、7月、192日目。


Day 192: Jonas Mekas
Wednesday July 11th, 2007
4 min. 52 sec.

Audubon Trail
walk, Wellfleet,
Cape Cod --
summer ---

夏のケープ・コッド
ウェルフリート
オーデュボンの自然道を
散歩する

6月6日に、同じケープ・コッドでの夏の思い出が綴られた。今回はその同じ夏の思い出の第二章のようだが、前回登場した奥さんらしき婦人と上の娘の姿は見えない。今回は、5、6歳の息子(セバスチャン)と10歳くらいの下の娘と三人で、ウェルフリートの自然の中で、草や木や水、そして光や音と戯れるカメラ=メカスがいる。だが、前回同様に自分の姿は見せない。一度自分の影を束の間写しただけである。声もほとんど発しない。いつもカメラで自分たちや周囲を撮り続けている父親と暮らす子どもたちの気持ちのことがちょっと気になった。でも、おそらくメカスは自分がそうする、そうせざるをえない理由を理解されるかどうかは別にして一所懸命説明したんだろうなと想像する。

ウェルフリートは砂地の海岸から続く湿原地帯のようだ。沼や池が豊富で、蟹や水鳥の姿が見えた場面もあった。日本流に言えば国定公園に指定されている地域のようだ。米国にはニューヨークに本部を置くナショナル・オーデュボン・ソサイエティ(National Audubon Society)という非営利組織があって、全米各地に野生生物保護区を指定している。このウェルフリートもそのひとつに数えられる。オーデュボン(Audubon)という名前は、フランス系アメリカ人の鳥類学者で画家でもあったジョン・ジェームズ・オーデュボンJohn James Audubon, 1785-1838)の功績、名誉にちなんで付けられた。

それにしても、ふたたび、清教徒ピューリタン)の一団(ピルグリム・ファーザーズ)をのせたメイフラワー号が錨を投じ、北米大陸にその足跡を標したケープ・コッド、アメリカ合衆国のルーツのような場所、エマソン(Ralph Waldo Emerson, 1803-1882)がそこに立って初めて、アメリカ全土を背にすることができると語った象徴的な場所の記憶を想起しながら、メカスは何を想うのか。昨日は清教徒の正統な末裔である人々の「勤勉さ」を言わば時間的ロング・ショットで見せて、一昨日は「勤勉さ」とは正反対の「怠惰(laziness)」について熱く語っていた。欧米型の文明を心底あざ笑うかのような言葉を吐く一方で、それが保護する自然の中で無邪気に遊ぶ子どもたちの至極平和な光景を反芻することの矛盾を、メカスは宿命のように引き受けているのだろうか。

雑草の生い茂る野原で地下水を汲み上げる手動のポンプを見つけた子どもたち。姉は弟のためにポンプを漕いでいる。大きな蛇口から冷たく新鮮そうな水がふんだんに出ている。直接口を近づけて美味しそうに水を飲むセバスチャン。今度は私の番よ、パパ来て、と娘が言う。分かった、漕いであげる。ところが、セバスチャンはもう一回、もう一回、と甘えてせがむ。それに応える姉。その表情を捉えるカメラ=メカス。彼女はカメラ=メカスの方を一瞬見る。そこには満面の笑みを浮かべる娘の顔がある。この一瞬の笑顔の為に今日のフィルムはあると直観した。カメラを右手に持ち撮影を続けながら、メカスはその娘の為に左手でポンプを漕ぐ。さあ、ルナ、と聞こえたような気がした。(追記:7月20日に、「ウナ(Una or Oona)」と判明した。)

蛇足ながら、前半、娘がある低木に近づいて興味を示している様子を撮影しながら、メカスは「それはジュニパー(juniper)だよ」と教えていたのが印象的だった。ジュニパーは和名セイヨウネズ。その実は蒸留酒ジン(Gin)の香りの素。