ジョナス・メカスによる365日映画、8月23日、235日目。
Day 235: Jonas Mekas
Thursday, August 23rd, 2007
4 min. 56 sec.
Harry makes me
his mother's soup
to help me
to get rid of a
cold ---my thanks
to Michael for a
great song ---
ハリーが
私の風邪を追い払うために
母親直伝のスープを
作ってくれる…
マイケルに
いい歌を感謝…
鍋の中で旨そうな野菜スープが煮立っている。畏友ハリー・スタンダールのアパートメントのキッチンのようだ。材料と作り方を訊ねるメカスの声は酷い鼻声。ハリーはスープをゆっくりとかき混ぜながら、材料について説明する。牛肉、玉葱、ジャガイモ、トマト、……。味付けは教えない。秘密なんだ。「母親のスープ(Mother's Soup」とテロップが入る。わずかに間があってから、ハリーは「これは咳に効くよ」と言って、ドラゴンフルーツ(dragon fruit)をメカスに食べさせようとする。
場面は替わり、メカスは自分のアパートメントの部屋にいる。プリメインアンプのボリュームを上げるメカス。「ハリーの母親直伝のスープで気分が良くなった私は美しい音楽を大音量でかけたが、ドアの下にこれを見つけた」と、これは多分後から入れたナレーション。プリメインアンプのボリュームを下げるメカス。
こんな内容。
SORRY TO BOTHER
YOU BUT i KNOCKED
AND YOU DID NOT ANSWER
THE MUSIC IS VERY
LOUD WOULD YOU
MIND TUNING
IT DOWN.
RINDY
同じアパートの隣人からの苦情のメッセージだが、一時的な感情をコントロールして自分の気持ちを冷静に選んだ言葉にたくして相手に伝えようとする大人のコミュニケーション。
聞こえる歌は初めて聴く男性ボーカル曲で、「すべてから距離を置いた」(フェルナンド・ペソア*1)感じの、ほどよく力の抜けた大人の歌。曲名も歌手もマイケル(Michael)も未同定。
同じ歌が聞こえる中、場面は替わり、カメラから離れた部屋の奥のフロアーにクッションを置き、その上で三点倒立するメカス。再び「…母のスープ」とキャプションが入る。カメラは「こちら側」のどこかに置かれている。三点倒立を終え、クッションを丁寧に片付けて、こちらに、カメラの方に歩いてくるメカス。フレームから外れたところで、何か言うかと思ったら、「わっはっはっは」。84歳とは思えない体力だ。
*1:『不安の書』18頁