二風谷の記憶2:待機


沙流川河口の沖合に一艘のボートが波間に見え隠れしていた。何してるんだろう?

河口の砂浜にはたくさんのカモメがちょっと怖いくらい群れていた。近づくと、その一部が飛び立った。

河口のベスト・ポジションにカモメの仲間のように制服の人物が沖をじっと見つめて立っていた。私が近づいても身じろぎもしなかった。正直なところ「じゃまだな」と私は思った(ごめんなさい)。声を掛けて何をしているのか訊ねたら、彼は「海の深さを測っているんです」と沖のボートを指差した。そうか、あのボートに仲間が乗っていたんだ。沙流川という和名にも表わされているように、この川は昔から砂を運ぶ川として知られてきたのだ。二風谷ダムによって沿岸の砂の堆積具合はどう変化したのか、彼に訊ねることは控えた。ちょうどその時は満潮ということだった。

彼は仕事上、その場を動くわけにはいかないようだったので、私は彼の立っているベスト・ポジションを諦めて、河口から少し離れた場所から河口を撮影した。彼とカモメたちが小さく写っている。

そしてこれから訪ねる二風谷方面を望んだ。

直に二風谷に向かうことはせずに、沙流川河口を起点にして、そこから二風谷へとゆっくりと遡るという考えは、なぜか、絶対にそうしなければならない命法のように感じられていた。そして河口で機が熟するのを待っていた。撮影はもういいと感じた私は自然な勢いで流木や朽ちた鉄板や錆びたコーヒー缶を拾い集めて、得意の「祭壇」を作り始めた。それが完成し、私なりの祈りを捧げ終わったとき、それまで私とは全くの別行動で撮影していた中山さん(id:taknakayama)が「機が熟した」表情で戻ってきた。