Kubelka on Apollinaire:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、10月28日、301日目。


Day 301: Jonas Mekas
Sunday, October 28th, 2007
11:31 min.

Kubelka on
Apollinaire and
translations --
and a few other
things --

クーベルカ
アポリネールと翻訳
について語る。
二、三他のことも。

ラウル・デュフィRaoul Dufy, 1877-1953)による「鳩」(LA COLOMBE)の木版挿絵がクローズアップされる。アポリネールの『動物詩集あるいはオルフェウスの従者』(Le bestiaire ou le cortège d’Orphée, 1911)の一頁である。

Le Bestiaire Ou Cortege D'Orphee

Le Bestiaire Ou Cortege D'Orphee

Bestiary, or the Parade of Orpheus

Bestiary, or the Parade of Orpheus

パリのどこかのカフェで、博識多才のクーベルカによるアポリネールの『動物詩集』の中の「鳩」に関する楽しそうな「講義」が始まっている。「生徒」はベン・ノースオーバー、パイプ・チョドロフ、セバスチャン・メカス、そして見知らぬ若い女性。撮影ジョナス・メカス。「『ル・ベスティエール』という本、獣のコレクションという意味なんだけど、ラウル・デュフィの挿絵入りなんだ。木版のね。その本の中に『鳩』がある。フランス語では『コロンブ』。たった四行の詩なんだが、アポリネールを理解する鍵なんだ。というのも、こうなんだよ。」と言ってクーベルカはその「鳩」を暗誦して聞かせる。

LA COLOMBE

COLOMBE, l'amour et l'esprit
Qui engendrâtes Jésus-Christ,
Comme vous j'aime une Marie.
Qu'avec elle je me marie.

英訳:

The dove

Dove, the love and the spirit
That engendered Jesus Christ,
Like you I love a Mary,
Whom I hope to marry.
(Translated by Lauren Shakeley)

拙訳:

鳩、
エスキリストを生んだ
愛と精霊の象徴、
あなたのように私は聖母マリアを愛し、
マリアとの結婚を望む。

クーベルカは英語に翻訳しながら説明する。「鳩は、愛、精霊のこと、それがイエス・キリストを生んだ。あなたと同じように私はいつもマリアを愛する。そして私はマリアと結婚したい(笑)。凄いだろう。マリアと結婚したいだよ(笑)。本当に素晴らしい想像力さ。」ベンが翻訳について質問する。翻訳に関しても一家言をもつクーベルカは即座に応答する。「私は翻訳を集めているんだ。誰かがそれは翻訳は不可能だと確信するものについてもね。詩は典型的だけどね。でも、異なる言語が存在するという事実を踏まえれば、異なる意見、解釈があって当然なんだ。そもそも同じではあり得ないよ。もし翻訳しなければならない場合、翻訳を見る場合に、知っているどんな言語でも、翻訳者の意見、解釈に出会うことになる。時にはそれが何かにヒットしている、大抵の場合失敗しているかもしれないが、でも翻訳を見ることは面白いよ。」
ベンが英仏併記のアポリネール『カリグラム』"Calligrammes", 1912-1918)の文字で絵を描いた例を持ち出して、翻訳における文字と絵(形)の関係について触れると、クーベルカは再びすかさず「そう、形は保存されるよね」と言う。「他にとてもデリケートな問題があるよね」とクーベルカは話の舵を大きく切る。話すことと書くことの間でも「翻訳」が行われていて、ある意味ではその両者の間にも翻訳不可能性があるという興味深いこと、詩においては音響的発話と視覚の両者が同時に働いているから本当は詩は朗読することはできないこと、そして最期に話すことと本(書かれたもの)との間の違いについて、本というものはすでに「翻訳」であると語る。セバスチャンが中国語における発音と文字の関係について、文字に比して発音の変化が大きい例を挙げる。クーベルカは異なる言語で同じ文字が使われる面白さを指摘し、テーブルの上のグラスを持って、同じものなのに、言語が違えば名前が違うと言う。そしてわれわれは言語に依存しないで、物を見、触れ、嗅ぐことができると主張し、それを「非言語的哲学」(nonverval philosophy)と命名する。

少し間があってからクーベルカは続ける。「そういうわけで、アポリネールが好きなんだ。そうだ、もうひとつ話があるんだ。いわゆる偉大な人びとは、とんでもなく愚かな事、信じられないようなことをした。アポリーネルは軍隊に志願した。あのヴィトゲンシュタインもそうだった。ドイツの偉大な作家の一人ゴットフリート・ベンGottfried Benn, 1886-1956)は若い頃ナチに入った。そう、ギュンター・グラスGünter Grass, 1927-)もね、いい詩人じゃなかったから。もしよい芸術家でないなら、政治に接近するということさ。人間存在は束(bundle)なんだ。統一(unity)じゃない。美しいほど複雑なんだよ。」

ちなみに、Le bestiaire ou le cortège d’Orphéeの邦訳に関しては、1925年に堀口大學による本邦初訳『動物詩集』が出版されたらしいが詳細は不明。その後1978年に堀口大學による口語体による新訳版『動物詩集』が求龍堂から出た。ラウル・デュフィーの木版挿絵が使用された。


動物詩集―又はオルフェさまの供揃い (1978年)

そして1991年に窪田般弥による新訳版『動物詩集』が山本容子の版画挿絵入りで評論社から出た。


動物詩集 (児童図書館・絵本の部屋―はじめてのクラシック)

1978年の堀口大學新訳版について気谷誠さんが「挿絵本」の観点から解説している。