Zapfino(1998):書体が見る夢の形


Zapfino


Mac OS Xに標準搭載されているスクリプト書体 Zapfino の見本

以前から見事な造形のスクリプト(手書き風)書体だなあと感心して眺めていた Zapfino。「ツァプフィーノ」と読む。この書体がヘルマン・ツァップHermann Zapf, 1918–)の設計だということを最近知った。そして Mac OS X に搭載された Zapfino の修整版には、小林章氏の手が加わっていることも。最新版はファミリーの大幅な拡張を行った Zapfino Extra(2003)である。したがって、3種類の Zapfino が存在する。

  • Zapfino(1998)
  • Zapfino( Mac OS X 搭載)
  • Zapfino Extra

『欧文書体 その背景と使い方』(asin:4568502772)の中で、小林氏は Zapfino の誕生、修整、拡張の経緯について語っている。

手書きのリズムや流れをそのまま活かしたスクリプト書体をつくること、これはカリグラファとしても世界的に名の知られているツァップ氏の夢でした。活字時代から彼は多くのスクリプト書体を作っていますが、鋳造活字の様々な制約のせいで文字の形を枠のなかに押し込めるデザインを強いられることが多く、彼が本当に満足できるデザインはできなかったのです。

デジタル書体の登場後、ツァップ氏それまでの制約からの解放を喜び、枠に収まらないのびのびしたスクリプト体の試作を 1993 年頃からはじめました。その時にモデルとなったのは戦時中にツァップ氏が書いたカリグラフィ作品でした。
(中略)
私とツァップ氏が Optima nova の制作の最終段階にさしかかった頃、米国アップル社から Zapfino を Mac OS X に標準搭載したいと要請があったので、Optima nova と同時進行で Zapfino 1998 年版を大幅に改良しました。
(中略)
ツァップ氏と私がすべてに目を通し、ほとんどの文字を修整してアップル社に提供しました。そこから新しい Zapfino を拡張しようという企画が持ち上がり、OS X 搭載版をさらに改良して字種も大幅に増やしたものが Zapfino Extra です。
(122頁)

以上の経緯および Zapfino Extra の詳細に関してはライノタイプ社のサイトにも小林氏自身による解説ページがある。

「枠に収まらないのびのびしたスクリプト体」の設計は、枠という物理的制約の中での設計に比べて、一見自由で簡単のように思われるが、それはもちろん「文字としての形」という制約から自由ではなく、むしろ従来とは異なる新たな「枠」を創出するという別種の困難に立ち向かうことを意味する。現に、Zapfino は本格的な試作開始からでさえ完成するまで5年の歳月を要している。しかもその雛形は戦時中のカリグラフィ作品にあったわけだ。その間ツァップが枠という物理的な制約のなかで設計した代表作のPalatino(1950)Optima(1958)などに見事な造形として封じ込められた手書きの運動の痕跡=記憶は、実はZapfinoのような姿を夢みる形でもあったのだと今更ながらに思う。

ヘルマン・ツァップの公式サイトはこちら。


http://www.hermannzapf.de