夜の散歩

いつの頃からか、風太郎は夜の散歩に出たがらなくなった。夜の散歩は中断したままだった。最近、思い立って、私ひとりで夜の散歩をはじめた。いつか朝もひとりで散歩することになる。

夜の散歩は朝の散歩と全く違う。視覚の働きが制限される分、他の感覚が俄然はたらき出す。朝、風太郎と歩く同じ道を夜歩く。朝にはあまり感じられない道の起伏を足裏から強く感じたり、両側に迫る民家の存在が肌に近く感じられたり、原生林や街路樹の吐き出す色んな匂いが鼻を突いたり、下水道を流れる水の音がよく聴こえたりする。今夜は特に原生林の奥の方から蛙の合唱がよく聴こえた。