見えるもの/見えないもの

これは昨日のお伽噺的美崎薫論の「続き」です。

実は、美崎さんがこのような「シャーロック・ホームズ事件簿」の写真をわざわざ送ってくれたのには、深い訳があったことに私は気づきませんでした。一瞬、なんでこんな写真を送りつけたんだ?と思ったのですが、他の事に気を取られて、そのかすかな違和感、ひっかかりを通り過ぎてしまいました。反省。それにしても、美崎さんは「三上さん、気づかないだろうな。気づくわけはないとは思ってたんだ。でも、ちょっと残念だなあ」とか、言ってきてくれるわけです。優しい人ですね。しかも、それに続けて、こんな格言を書いてよこすんです。「目に見えるものを見ていてはだめだ、心の声に耳を澄ませば、見えないものが見えるかもしれません。」なんて嫌みなんだろう、とは私は思いません。ホントにそうだなあと素直に思うわけです。繰り返しましょう。「目に見えるものを見ていてはだめだ、心の声に耳を澄ませば、見えないものが見えるかもしれません。」

一体、何のことを話しているのかというと、上の写真のオリジナル(1.1メガバイト)はただの写真ではないということです。「目に見えるものを見ていてはだめだ」というわけですね。写真は美崎さんの人生、世界の記録にとって必須のデータ(ファイル)です。しかも、彼は膨大なファイル間に「使える」関係、すなわち「ハイパーリンク」を張り巡らすことを日常的に行っているわけです。何のためか?いつでも素早く検索(想起)できるようにするためです。そんな大事な写真がただの写真であるわけがないことに、私は気づくべきだったのです。ところが、私は、そんな美崎さんの研究ないしは遊びの核心部分から目を逸らし、他の部分に浮気していたわけですね。三上さん、浮気しないでよ。そう美崎さんはちょっと淋しそうに、でも紳士的に訴えてきたわけです。浮気現場を押さえられた私は、下手な言い訳はしません。少なくとも、しないよう心がけています。素直に謝ります。ご免。そして堪えるべき時間を堪えます。大人ですから。そして即座に次、先、未来を考えます。

そういうわけで、美崎さんがわざわざ送ってくれた写真には「見えないタグ」が埋め込まれていたんですね。「検索できる写真」だったわけです。ちょっと想像がつかないなあという学生さんたちのために、簡単に説明します。美崎さんが送ってくれた写真ファイルのフォーマットはいわゆるJPEGです。金城さんが話題にしているJPEG2000の親戚です。普通こういうファイルは写真用ソフト(アプリケーション)で開いて、見えるものだけ見て終わるわけだよね。ところがね、デジタル・データって、要するに記号の集合体でしょ。その記号の中に文字列として復元できる要素を潜ませる、組み込むことなんて簡単に出来るわけね。デジタル透かし文字だね。その見えない文字を見るにはさ、JPEGファイルをさ、例えば、何でもいいよ、テキスト・エディタとかワープロ用ソフトで開いて見るのさ。すると、写真としては表示されずに、記号列が表示されるというわけ。で、他に適当なソフトがなかったので、WORDを使って、文字コードをUNICORDに設定して試しに開いてみたらね、ほら、こんな風に「文章」が見えたわけ。こんな文字情報が写真の中に組み込まれていれば、文字による検索にかけられるでしょ。

文字化けは気にしないでね。Macでちゃんと開けるアプリケーションってあるのかな。知っている人いたら教えて。美崎さんが開発して使っているらしい道具を使えば、画像部分と文字部分が綺麗に別れて表示されるんだよ、きっと。つまり、デジタルの世界にも「見える/見えない」というメルロ・ポンティ的な現象学的な場面が多々あるということですね。で、美崎さんはそんな世界を自在に操作かつ捜査できる道具を色々と自分で作って遊んでいるわけです。楽しそうでしょ。

美崎さん、このくらいで、許してね。