デレク・ジャーマンはミツバチを飼っていた


 左:un dernier jardin, 右:Derek Jarman's Garden


古い友人が「ほら」と一冊の本をくれた。「お悔やみに」と口には出さなかったが、そうだと受け取った。嬉しかった。私の枕頭の書の一冊 derek jarman's garden(『デレク・ジャーマンの庭』)のフランス語版 un dernier jardin / derek jarman だった。日本語版はまだない。その題名が「最後の庭」となっていることに驚いた。デレク・ジャーマンにとって「最後」だったというだけでなく、人類にとっての「最後」の現実を暗示する「庭」であるという認識を喚起させる訳者のディディエ・コルトリ(Didier Coltri)の洞察に感心した。この『デレク・ジャーマンの庭』については以前簡単に触れたことがある。



 un dernier jardin, pp.53–54


テクストの言語の違いを除いて、原著と瓜二つのフランス語版のページをぱらぱらと捲っていて、何度も見ていたはずの巣箱、ミツバチの群、六角形が縦横に連なる巣、金色のハチミツと続く四枚の写真に目が釘付けになった。デレク・ジャーマンはあの原発のあるダンジネス(Dungeness)の庭で養蜂もしていたのか! 放射能汚染のために、すでに漁師たちが放棄した海岸近くの荒れ地にぽつんと建つ「見晴らし小屋」に住み始めたジャーマンはHIVに冒されどんどん弱って行く自分の体を直視し続ける一方で、懸命に祈るようにして植物を育て、土地、そして地球の病を映し出す鏡のような「美しい庭」を死ぬまで作り続けた。その間ジャーマンは人類史など一瞬にすぎないほどの長い時をかけて形成された複雑で絶妙で脆い均衡としての生態系の崩壊も感じとっていたに違いない。

思えば、先日『ハチはなぜ大量死したのか』を読んでいなかったら、こうしてミツバチの写真に特別に気を止めなかったかもしれない。

ハチはなぜ大量死したのか

ハチはなぜ大量死したのか


「蜂群崩壊症候群(CCD)」の深刻な実態の把握*1、複合的な原因の解明、その対策等への関心と並行して、私は訳者の中里京子さんが「あとがき」で紹介する趣味の養蜂に強く心を惹かれたという経緯があった。もちろん高いハードルはいくつもあるが、自分でミツバチを飼うことができるんだ! 目からウロコが落ちた。中里さんとのメールのやり取りの中でも、この私がいつかどこかで個人的に養蜂に挑戦するという夢にも思わなかったことが少しずつ現実味を帯びてきた矢先でもあった。

庭で飼う、はじめてのみつばち ホビー養蜂入門

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参考:

*1:今週号の「週刊文春」に日本の養蜂家におけるCCD被害の予想外に深刻な実態報告に関する短い記事が掲載された。