生きている人の寺:生活保護へのベースキャンプ


「生きている人の寺」(朝日新聞2009年4月14日夕刊)

新聞の小さなコラムが目にとまった。

社会の底が抜けて、生存権さえ奪われた人々が増える中、最低限の衣食住を無償で提供し、「生活保護へのベースキャンプ」になっている寺があるという。在家の僧侶の真壁太隆(まかべたいりゅう)さんが6年前に宮城県南部の阿武隈川沿いに、古い農家を改造して開いた曹洞宗の寺、不忘山行持院(ふもうさんぎょうじいん)である。檀家も墓もなく、葬式も法事もやらない。「死んだ人」相手のサービスはいっさい行わず、生きている人々の苦しみに寄り添い、救済することを目指しているという。

 当初は職や住まいに困った外国人の面倒をみようと思った。それが今年初めから、派遣切りなどで仕事を失った人たちの「駆け込み寺」になっている。布団と三食を無償で提供し、月5千円の生活費も出す。寺だからといって座禅させたり、説教することはない。

そんな寺の維持費は寄付のほか、美容室の経営などの事業から得る収入を充てているという。得たお金を何に使うかで個人や組織の器や品格が問われる。いろいろと厄介な問題が予想されるだろうが、真壁太隆さんは「修行のひとつ、当たり前のことをしているだけ」と毅然としているという。

 路上や車中で生活する人たちは、住所がないために生活保護が受けられない。寺が住所になれば、手続きが進む。これまでに来た40人のうち、12人が生活保護を受け、出ていった。いまいる17人の多くも手続き中。

実際問題、生活保護にまでこぎ着ければ、後は自力でなんとか、という思いがあるに違いない。

かつて、宮本常一の実家がそうだったという「善根宿」を連想した。