海を渡る、と書いて渡海家(TOKAIYA)。いい名前だなあ。海の街小樽のラーメン店にふさわしい絶妙なネーミングだと思う。店主はフレンチやイタリアンの世界からいわば海を渡ってラーメンの世界にやってきた。何かを捨てて、小樽にやってきた。店主自身がいくつかの海を渡って今ここにいるということが、肝腎のラーメンの味からもしっかりと伝わってきた。一種のカルチャーショックを受けたほどの素晴らしい味だった。ただし、若いもんの舌には分からない味かもしれない。私は生まれて初めてラーメンのスープを飲み干した。人口調味料はもちろん、油も一切使われていない、白醤油がベースの未体験の深〜い味だった。両面を軽くソテーしたチャーシューも絶品、さらに一番だしで炊いたご飯に鰹の身をほぐして載せた「かつおめし」も絶品だった。店内には静かにジャズが流れていた。ぼくらの隣では常連らしいおじいさんがラーメンと餃子を平らげて帰った。店主がいくつかの海を渡ってきた理由は、一言「好きだから」ということだった。