このあまりに有名な肖像写真が以前から気になっていた。最近、朝日新聞の連載コラム(「大逆事件残照3 許されざる者 非戦の秋水」)にも掲載されていた。背後の暗闇から浮びあがるような、あるいは暗闇に吸い込まれていくような秋水のカメラからわずかに左に視線を外した姿。左手は開かれた洋書らしき書物が閉じないように両頁を軽く押さえるように置かれ、右手の人差し指は耳の前にあてられている。一種の定番のポーズだったのだろうか。特に、この人差し指を耳の前にあてるポーズが気になっていた。どんな意味があるのか。私も無意識に同じポーズをとることがある。
人相では耳の前は「命門」と呼ばれることを知った(「人相の名称早見表」参照)。命門といえば、東洋医学では生命の根源に通じるとされる重要なツボの一つである(「命門について」参照)。秋水はそんな場所を敢えて指していたのか。ちなみに、夏目漱石(1867–1916)の有名な肖像写真では、漱石の右手は額の横に当てられているが、その場所に関しては未詳。