時間持ち

鹿児島の南九州市川辺町の土喰(つちくれ)というすごい名前の村に「変な」アメリカ人が暮らしている。肩書きは民俗学研究者兼土喰小組合長のジェフリー・アイリッシュ(48歳)。シリコンバレーで育つも、17歳のときに黒澤明の『影武者』を見て日本に興味を持ち、大学では日本史を専攻し、卒業後清水建設に入社し、ニューヨークで現地法人を設立し副社長になるも退職し、その後鹿児島の下甑(しもこしき)島で定置網の漁師になり、いったんハーバード大大学院で民俗学を学び、京大留学を経て、結局、土喰(つちくれ)に根を下ろした。村はずれの家畜見張り小屋に住み、共同作業に率先して加わり、伏す老人を見舞い、寄り合いの口論にじっと耳を傾け、小さな畑を耕し、わずかな稼ぎで生計を立てる。そんな彼の言葉。

お金持ちではないが時間持ちです。

……生きていることは当たり前とは思えません。与えられた時間は貴重です。お金なら企業で役員をしていた頃の方がたくさんありましたが、今は大切な時間を全部、自分の意思で使えます。

 (朝日新聞2009年5月30日「フロント・ランナー」)

「時間泥棒」、「時間の奴隷」っていう言葉があったけど、「時間持ち」っていう感覚に共感した。

彼が英訳した宮本常一の『忘れられた日本人』が今秋に米国で出版される。


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