熱に浮かされて

A River Dream

A River Dream

本は無理でも絵本なら、と枕元にはアレン・セイの絵本を積み重ねて寝ていた。蒲団の中で熱に浮かされた頭と眼鏡をはずした老眼で絵をちょっと眺めては意識を失うということを繰り返した。何度も手にしたのが病床にある少年の体験を描いた『A River Dream』(1988)だったからか、そのうち夢か現か分からない状態のなかで荒唐無稽なことを考えていた。私がみる夢、生きる現実と奇妙につながる言葉がみる夢、言葉が生きる現実ということを。

The Lost Lake

The Lost Lake

Allison

Allison

アレン・セイが何気ないようでいてじつは非常に慎重に使う『The Lost Lake』(1989)の「Lost」という一語や『Allison』(1997)に登場する「the stray cat」の「stray」などはとても気にかかる言葉だ。それらは、どんな地図にも載っていない、誰にも飼われることのない自分の人生の有り様を背景にしていると感じさせる。だから、たんに一過性の迷いや喪失や野良状態のことではないはずだ。いわば永遠のそんな状態のなかでの生き抜き方を示唆しているようだ。

Under the Cherry Blossom Tree: An Old Japanese Tale

Under the Cherry Blossom Tree: An Old Japanese Tale

そういえば、『花咲か爺さん』を大胆にユーモラスに書き変えた『Under the Cherry Blossom Tree』(1997、初版1974)の裏表紙のプロフィールには、今から10年余り前の「Tofu」(「豆腐」)という名前の猫を抱いたアレン・セイのポートレイトが使われていた。妙にアレン・セイと一体化したような雰囲気のカメラ目線の猫だ。『Allison』(1997)に登場する「the stray cat」にそっくりだ。Tofu は the stray cat だったのだろうか。