Tea with Milk

Tea with Milk (Rise and Shine)

Tea with Milk (Rise and Shine)

後から失うものと初めから失われているものとの間にはどんな関係があるのだろうか。父母が離婚したことによって失われたもの、その言わば大きな穴を埋めるようにして、「自立」を余儀なくされた彼(アレン・セイ)の人生の歩みがある。しかし、後に彼は記憶にはないはずの、離婚するはるか以前の父母が一人の男と女として、それぞれ数奇な運命をたどった末に出会い、結婚するまでの道筋をひとつの物語として創作する。


 pp.30–31

献辞には「For Saito Misako Sensei」とあるが、アメリカで生まれ育ち、高校を卒業すると同時に父母の祖国日本にやって来た日系二世の一人の女性の根深い葛藤と親にも話せない苦悩を優しく優しく包み込むような、驚くほど繊細な水彩画で表現した Tea with Milk(1999)は、自分を捨てたことを恨みもしたはずの母親へのオマージュであり、失われたものによる「穴」は決して彼ひとりのものではなかったという思いに達した証にほかならないと思った。