「記録なくして事実なし」:土本典昭(1928–2008)

前エントリーで取り上げた緒方正人さんの意見広告の中に、「記録なくして事実なし」をモットーに長年にわたって水俣病を記録しつづけた土本典昭監督への言及がある。

 今月、熊本県水俣市で、2日かけ、昨年亡くなった土本典昭監督の映画13本を上映した。水俣病をテーマにした製作を通し、20年以上にわたるつきあいがあった。代表作の一つといわれる「水俣---患者さんとその世界」は、患者たちの日常生活を追いながら、原因企業のチッソに裁判を起こし、株主総会で社長の責任を追求していくまでの過程を描いた映画だ。人々に水俣病の原点を見つめてもらいたかったのだ。

 緒方正人「水俣病問題 『個の責任』に立ちかえれ」(2009年6月18日朝日新聞)より

そして、今日の朝日新聞夕刊に、5月下旬に中国北京郊外の宋荘で開催された第6回中国ドキュメンタリー映画祭での土本典昭監督の回顧上映会の模様を報告する映画研究者の石坂健治氏(→ プロフィール)による記事が掲載された。

石坂健治「『考えるための映画』が手本に/中国で土本典昭監督の回顧上映」(2009年6月19日朝日新聞)より

その中で石坂健治氏は土本典昭監督、その作品の意義、そして来るフィルムセンターでの展覧会についてこう述べている。

 土本監督は高度経済成長に邁進した戦後日本、とりわけその歪みとしてあらわれた環境破壊(水俣病)を長年にわたって見据え告発してきた。ここに集まった若い作家たちもまた、国内の公式メディアが報道しない社会問題について政府批判も辞さずに描き出そうとしており、オリンピック後も経済成長が続く中国の影の部分を捉えようとする彼らにとって、土本作品は決して過去の遺産ではなく、アクチュアルな「現在」なのである。関心が高いのも当然といえよう。

(中略)

 6月30日から東京国立近代美術館フィルムセンターでも「ドキュメンタリー作家 土本典昭」と題した展覧会が開催される。ひとりのドキュメンタリー監督に特化した展覧会はフィルムセンター初の試みだそうだが、「記録なくして事実なし」を常々口にしていた土本監督の驚異的な資料収集・整理力を示すモノが多数展示されるにちがいない。今から待ち遠しい。


参照:


関連ビデオ:

水俣病 - 1965


追悼上映 土本典昭の世界 ─ドキュメンタリーの海へ


映画『映画は生きものの記録である 土本典昭の仕事』予告編