プレリュード






「時の流れの中にさえも、その流れによって時が自らを回復する何かがある」(ソロー)
‘There is something even in the lapse of time by which time recovers itself.’





サフラン公園の奥にある東屋で苅谷さんとおしゃべりする。話題は自然と過ぎ去った昔に遡る。私の想像を越えた辛い思いをたくさんくぐり抜けてきた苅谷さんだが、「ああ、今となっては、みんな、いい思い出だ」と笑う。近いうちに三つ目のペースメーカーを埋めるんだ、とひと事のように語る。釧路や北九州での炭坑の仕事、炭住での暮らし。馬を飼って農業をしていた頃の話。農業を諦めたときの話。一里(4キロ)の山道を歩いて初めての映画を観に行ったときの話。田中絹代、、。物々交換が当たり前だった時代の話。今の世の中どう思う? という私の質問には、一言「贅沢だ」三月の眩しい光のなかで、冷たい風に吹かれながら、体の芯まで冷えきるも、気持ちは暖かかった。