自然の深い模倣:アンディ・ゴールズワージーの場合




ちょっと疲れた時には、アンディ・ゴールズワージーAndy Goldsworthy, born 1956)のこれぞ本物のインスタレーションと思わせる仕事、彼の作品の制作現場を収録したDVD『RIVERS AND TIDES』(2004)を見たくなる。


その『RIVERS AND TIDES』の前半に彼の精神、彼の作品の本質を見事にユーモラスに伝える遊びが収録されている。ある時、雨が降り始めるやいなや彼は地面に両腕と両脚を広げて仰向けに寝る。そうして雨に打たれるがままになる。気持ちよさそうだ。真似してみたい。しばらくしてから起き上がると、白っぽい人像(ひとがた)が雨に濡れて濃くなった地面にくっきりと浮び上がる。雨は降り続けているので、数分いや数十秒しかこの世に存在しない「作品」である。こんな自然の中での遊びの延長線上に彼の壮大なものも含めた作品群は位置づけられる。


アンディ・ゴールズワージーに関しては過去に二度書いた。


そこでも書いたように、アンディ・ゴールズワージーの存在と彼の仕事について知ったのは、6年前にアメリカにいる時だった。あちらで親しくなったロン・サンド(Ron Sand)翁がある日の会話の中で、お前も気に入るはずだからと言って、教えてくれたのだった。すぐに図書館に走って彼の作品集を探し出して片っ端から見て感動し、『RIVERS AND TIDES』も注文した。ちなみに、昨年暮れにロンは新しいガールフレンドを連れて高野山を訪れたが、私はちょうど沖家室島にいて、会うことはできなかった。

Andy Goldsworthy: A Collaboration with Nature

Andy Goldsworthy: A Collaboration with Nature

Stone

Stone

Wood

Wood

Passage

Passage

Enclosure: Andy Goldsworthy

Enclosure: Andy Goldsworthy

Time

Time

The Andy Goldsworthy Project

The Andy Goldsworthy Project


ゴールズワージーが作る作品は素材がすべて自然物、石、植物の花や枝や葉や茎、氷などだ。しかもそれらをつかって、絶えず変化する自然の中に、海、川、湖、森などに長い長い時間をかけて作品を作る。汀で積み上げていた石が途中で崩れてしまうなどというアクシデントが起こり、満潮までに間に合わないかもしれないという時間との戦いも作品の一部である。しかも、首尾よく作品が完成したとしても、当然時間の経過につれて、それらの作品は流されたり、満潮時に波間に消えたり、氷の作品の場合は解けたりする。つまり消滅する。一種の時間芸術でもある。だから、彼の作品の実物を見るには、ある限られた時間内に現場に行かなくてはならない。それが出来る人は限られる。そこで彼は作品をすべて写真に収め、何冊も写真集を出している。まるで古代の遺跡、遺物の記録のようでさえある。


『RIVERS AND TIDES』を見るたびに、皮相な芸術的模倣からは限りなく遠い場所で、自然の変化や循環の相を深く深く模倣しようと試みる、自然との儚く脆いバランスの限界を探究する彼の姿勢に深く共感すると同時に、ちょっと嫉妬もし、真似したいとも思う。いつの間にか荒んだ心が癒される。もしかしたら、私は写真などを通してゴールズワージーの一種の真似をしているところがあるのかもしれないと思う。アンディ・ゴールズワージーの作品は、人間が作るもの、人工物の宿命を、もっとも雄弁にしかも美しい形で表現することにも成功していると感じる。