小津安二郎の静かな反戦


2003年12月27日にNHK教育で放映されたETVスペシャル「第1部 小津安二郎 静かな反戦」を学生たちと一緒に見る。

小津安二郎の映画には軍服を着た人間はただの一度も出てこない。しかし、小津安二郎は、紛れもなく戦争の真っただ中を生きた世代の人間である。自らも1937年から1939年にかけて、中国戦線に従軍した。その体験について、小津は次のように語っている。『僕はもう懐疑的なものは撮りたくない。何というか戦争に行って来て結局肯定的精神とでもいったものを持つようになった。そこに存在するものは、それはそれでよしっ!と腹の底で叫びたい気持ちだな。』

 番組紹介より


「そこに存在するものは、それはそれでよしっ!」とする「肯定的精神」について、吉田喜重は「ここにあるのは、戦場という極限の中で絶対的な不条理を肯定するしかない自己放棄の姿である」と述べる。そうだろうか? 戦争という非常時、非日常が、そこに存在するものを否定することに対する小津の腹の底からの反対という意味で、むしろ自己貫徹の姿であったのではないか。戦場というあるべきではない場所に存在するすべてのものや人を本来あるべき日常の場所に還すこと。それほど難しいことはない。だが、それが小津映画の「静かな反戦」の意味ではないか。