蛹、死のプログラム(apoptosis)



アゲハチョウの蛹か、未詳。


蛹といえば、人間の精神の蛹化、羽化のようなことを考えてしまう。蛹のまま羽化できずに終わる、とか。それは〈死〉をうまくプログラミングできない場合である、とか、、。「自分のこと、言ってるの?」

蛹(さなぎ)は、昆虫の一部のものが、成虫になる寸前にとる、成虫に近い形で、ほとんど動かない一時期をさす。また、成虫になるための準備期間であることから転じて、成長を遂げようとする人を比喩的に指して使う場合もある。多くの昆虫は幼虫から成虫へと変態を行う。バッタやセミなどでは、幼虫の体は成虫と比較的よく似た構造をもち、幼虫の背には小さな羽が見える。このような昆虫は、幼虫から脱皮によって直接に成虫が生じる。このようなものを不完全変態という。それに対して、チョウやコガネムシなどでは幼虫は成虫と非常に異なっており、幼虫の体はひたすら餌を食べて栄養を蓄えるのに向いた形態をとる。彼らの体は概ね、餌を認識する最低限のセンサーと消化器官から出来ているといってよい。しかし、成虫になる一回前の脱皮の時に、成虫の構造を小さくまとめたような姿になる。これが蛹である。完全変態の昆虫では、蛹の段階において身体の大改造が行われ、成虫の体は、一般的には飛翔能力を含めた高い運動性を備え、異性と出会い交尾し子孫を残すのに都合が良い形態となる。このような変態を完全変態という。蛹は成虫の大まかな外部形態だけが形成された鋳型である。その内部では一部の神経、呼吸器系以外の組織はドロドロに溶解している。蛹が震動などのショックで容易に死亡するのは、このためである。幼虫から成虫に劇的に姿を変えるメカニズムは、未だに完全には解明されていない。蛹は、多くの場合、成虫の形から、体を膨らませ、羽を縮め、手足をすくめ、それらを体に密着させた形になっている。鱗翅目は羽が大きいため体の大半を包み込んでしまい、脚や触角などは体に沿うように添えられている。(蛹 - Wikipedia

多くの品種の幼虫は、5齢で終齢を迎え、蛹(さなぎ)となる。蛹化が近づくと、体はクリーム色に近い半透明に変わる。カイコは繭を作るに適した隙間を求めて歩き回るようになる。やがて口から絹糸を出し、頭部を∞字型に動かしながら米俵型の繭を作り、その中で蛹化する。絹糸は唾液腺の変化した絹糸腺(けんしせん)という器官で作られる。絹糸腺にはセリシンという糸の元になるタンパク質がつまっており、これを吐ききらないとアミノ酸過剰状態になり、死んでしまうのでカイコは歩きながらでも糸を吐いて繭をつくる準備をする。また蛹になることを蛹化というが、養蚕家は化蛹(かよう)という。蛹繭の中でカイコの幼虫は丸く縮んで前蛹になる。これはアポトーシス(プログラムされた細胞死)が体内で起こっているのであり、体が幼虫から蛹に作りかわっている最中なのである。その後脱皮し、蛹となる。蛹は最初飴色だが、だんだんと茶色く硬くなっていく。羽化すると、尾部から茶色い液(蛾尿という尿。つかんだりしても敵を驚かせるために出す)を出し、絹糸を溶かすタンパク質分解酵素を口から出して自らの作った繭を破って出てくる。成虫は全身白い毛に覆われており、小さく退化した翅を有する。成虫は飛翔能力を全く持たない上、口吻が無いため餌を取ることは無い。交尾の後、やや扁平な丸い卵を約500粒産み、約10日で死ぬ。(カイコ - Wikipedia

アポトーシス (apoptosis) とは、多細胞生物の体を構成する細胞の死に方の一種で、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺すなわちプログラムされた細胞死(狭義にはその中の、カスパーゼに依存する型)のこと。これに対し、血行不良、外傷などによる細胞内外の環境の悪化によって起こる細胞死は、ネクローシス (necrosis) または壊死(えし)と呼ばれ、これと区別される。Apoptosis の語源はギリシャ語の「apo-(離れて)」と「ptosis(下降)」に由来し、「(枯れ葉などが木から)落ちる」という意味である。(アポトーシス - Wikipedia

プログラム細胞死(プログラムさいぼうし、英語:Programmed cell death, PCD)は多細胞生物における不要な細胞の計画的(予定・プログラムされた)自殺である。組織傷害などで細胞死を起こす壊死と異なり、一般にはPCDは生物の生命に利益をもたらす調節されたプロセスである。PCDは植物、動物、一部の原生生物で正常な組織形成や病原体などによる異常への対処として働く。(プログラム細胞死 - Wikipedia

多細胞動物の高度に組織化された細胞社会を構築・維持する上で、アポトーシスはきわめて重要な役割を果たしている。例えば昆虫では、蛹化の際には唾液腺などの幼虫器官が組織崩壊し、成虫原基の養分となる。これは、蛹化ホルモンであるエクジソンが、幼虫細胞にアポトーシスシグナルを誘導するためである。

Regulation of cell death: Lessons from flies and mammals(川口将史「COE外国人研究者等セミナーレポート」