ページの上に川が流れ、道が走り、未亡人がいることがある


和文と違って欧文の場合は単語と単語の間の空間、ワードスペースがあるため、組版の仕方によっては、白みが縦方向につながる場合がある。それまで横方向に流れていた視線が突然縦に流れ落ちる。欧文の組版の基礎的マナーとしてはそれはできるだけ回避すべき「悪い現象」とされる。面白い。

 ・・・ワードスペースの白みが数行にわたって縦に入り、つながって見えることがあります。これが、トカゲが歩いた跡や川のように見えることから、リザード (lizard)、リバー (river) といいます。組版上の悪い現象で、箱組の時に特に多く見られます。また、行頭、行末に同じ単語、あるいは同じぐらいの長さの単語が続くと、やはり縦に白い線が走ることがあります。これを、ストリート (street) といいます。

 高岡昌生『欧文組版』美術出版社、2010年、94頁


また段落の最終行、ページの最上段や最下段に1単語あるいは数単語が取り残されていることがある。これは「未亡人」と呼ばれ、組版上はできるだけ避けるべき「悪い状態」とされる。面白い。

 段落の最終行に、1単語だけとかハイフンで分割された単語の後半部分だけ、あるいは短い数単語があることをウィドウ (widow 未亡人の意) といいます。アンバランスで体裁の悪い状態です。ページの最下段に新しい段落の1行目があったり、次のページに最終行1行だけがあることも同様で、・・・

 同書95頁


前者も後者も避けるべき根拠として「アンバランス」であることがあげられているが、前者と後者はかなり性質を異にし、避けるべき根拠も異なるように思われる。命名の仕方にも隔たりがある。前者は段落やページの内部におけるアンバランスであるが、後者は段落やページの境界で起こるアンバランスである。後者は段落やページのまとまりを「汚す」ものとして排除されなければならないようではないか。