夢のかげ


目ざめて腕時計をみると

本書のタイトルは、島尾敏雄『夢のかげをもとめて 東欧紀行』(河出書房新社、1975年)に刻まれていた、活版印刷活字から拾われている。目をさまして時の刻みを確かめ、揺れ動く映像をたどり直したとき、私の、そして「私」の周囲には、いったい、どんな影が差しているだろうか。

 2012年1月31日、堀江敏幸(「目ざめて腕時計をみると」より)



夢のかげを求めて―東欧紀行 (1975年)



島尾敏雄『夢のかげを求めて 東欧紀行』(河出書房新社、1975年)352頁


露出もコントラストも低く抑えた、堀江氏の繊細な文体にも通じるような、正しく「夢」のような映像(写真)の数々は一見大人しく、見易いものに思われるが、しかし、それは見ること自体に無数の小さな傷が棘が刺さるように影を落としていることに気づきにくいからにちがいない。「夢のかげ」とは、人生の無数の小さな傷が見える世界に落とす影のことではないだろうか。