受講生の皆さん、こんばんは。
今回は、まず
1)「超応用科目」としてのこの講義の根本的な位置づけについて皆さんに再認識してもらうための話をしました(先生はいつも前置きが長過ぎる、というお叱りをいただきましたが、どうしても必要だったので、許して)。
2)それから、本論に入り、紀元前2世紀から紀元後7世紀まで、ローマ帝国の成立、変質、ゲルマン民族の移動に至る時期を舞台にして、情報文化的な観点から極めて重要な「百科事典」の成立、「ユダヤ・キリスト教」の背景、「修道院図書館」の三つに的を絞り、掘り下げました。
1)の中では、
a)消化不良を覚悟で固い食べ物にどん欲に噛み付いていく姿勢の大切さについて、
b)そして知識を得る「間口(まぐち)」をまずは思い切り広げる必要性について、
c)さらに、あらゆる場面で情報提供者の側にたった視点を持つことの重要性について述べました。
特に最後の点は、以前テレビ番組を制作者サイドからみる訓練の大切さを示唆したように、この講義の制作者サイド(三上)に立てるかどうかが、この講義から得られる収穫の質を最終的に決定するという意味でとても重要です。講義内容の質を決めるのは教員の視点の深さ、視野の広さなのですから、ここは私も真剣です。すでにそこに切り込んで来る人がかなり増えたので、非常に嬉しく感じています。ところで、出席カード(実質「感想カード」)は、皆さんの「参加度」と「編集力」をアピールする貴重な機会ですから、くれぐれも無駄にしないように。(5/30付けのコメントを参照のこと)。
2)に関しては、概要を「8地上のテリトリーと心のテリトリー」で、背景トピックを「07帝国と世界宗教」で、全背景を「年表(情報の歴史)」で、再確認しておいてください。今回の講義では、
a)百科事典の情報文化的な意義は世界に関する情報の「圧縮」にあるという論点は皆さん理解できたようですが、「解凍」はどうするのか、というIT的な質問がありました。実はこの場合の「圧縮」とは「要約」のことです。デジタルデータの「圧縮」とは性質が異なります。時代はまだ古代ですしね。そして今後重要なポイントとして浮上してくるのは、情報をいかに要約し、時に象徴的図像化を施し、かつ他と関連づけ、階層化して、さらにそれをいかにアクセス(接近)しやすいソフトウェアとして設計、製作するかということです。次回触れる予定の仏教建築、仏像、曼荼羅等々はそのようなソフトウェアとして再認識されることになります。余談として追加したトピックのEncyclopaedia BritanicaとWikipediaに関して興味のある人は、「情報倫理」関連の情報を覗いてください。
b)ユダヤ人の「ディアスポラ(離散)」に至る想像を超える苦心を背景にして、初めて「心のテリトリー」としてのユダヤ教の核心に触れることができるということについては、皆さん納得したようですね。しかし、ユダヤ人の離散直前に出現したイエスとパウロによって開始されるキリスト教の歴史には多くの謎(不明な点)があり、私も一つの推理を述べるに留めましたが、早速興味深い推理を書いてくれた人もいました。感心!
c)カッシオドルスの修道院図書館に関する解説をめぐっては、修道院と教会の根本的な区別、修道院が中世に「大学」へと進化する、という辺りで、多くの人が強い興味を抱いたようです。今日は触れられませんでしたが、東西の同期的事例として、中国の玄奘(あの「西遊記」で有名な三蔵法師の実在モデル)は中国の「カッシオドルス」であり、聖徳太子は日本の「カッシオドルス」で、法隆寺は日本の「ヴィヴァリウム」であるという点を資料07で確認しておいてください。東の寺院は西の修道院に相当するわけです。舞台は14世紀の修道院ですが、是非ウンベルト・エーコ原作の『薔薇の名前』を観ることを薦めます。できれば原作も。すでに文庫化されています。