ジョナス・メカスによる365日映画、62日目。
Day 62: Jonas Mekas
Saturday March. 3rd, 2007
3 min. 15 sec.
Rue de Seine, Paris.
Ben Vautier tells
an anecdote about
George Maciunas.
パリ、セーヌ通り
ベン・ヴォーチェは
ジョージ・マチューナスの
逸話を語る。
パリ、セーヌ通りに面したカフェから、カメラは向かいの建物を捉える。「ベン、どこだ?、ベン」というメカスの声。しばらくして四階の窓が開き男の姿が見える。「ベーン!」というメカスの大声が通りに響き渡る。何をしているのかは不明だが、ささやかなハプニングのパフォーマンスか。悪戯心、遊び心が感じられる。目の前に現れたベンは、アーティストというよりは職人の風情。「聞こえたか?」「聞こえた。聞こえた。」先ずは、とにかく乾杯。グラスの中で白ワインが波打つ。2月7日に登場したフルクサスの父ジョージ・マチューナス(1931-1978)とのニューヨークのソーホーでの思い出話。真夜中に帰宅したベンをマチューナスがからかった逸話を身ぶり手振り、表情豊かに愉快に語るベン。メカスの遥か遠くへ思いを馳せるような優しい笑い声が非常に印象的だ。
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イタリア生まれのフランスのアーティスト、ベン・ヴォーチェ(Ben Vautier, 1935-)の名前をこんな文房具などのデザイン・ブランド"Ben"で知る人も多いかもしれない。そこに書かれているように、「<NO MORE ART>のアイロニカルなフレーズで知られるベン・ヴォーティエ*1は、シニカルなことばあそびと味のある手書き文字が人気のフランス人アーティストである」。
しかし同時に、イヴ・クライン(Yves Klein, 1928-1962)の名とともに知られる50年代フランスのヌーヴォー・レアリスムから、さらにマルセル・デュシャン(Marcel Duchamp, 1887-1968)、ジョン・ケージ(John Milton Cage, 1912-1992)、50年代末からのネオダダ、そして60年代のフルクサス運動に深く傾倒した前衛アーティストでもある。当然ベンはニューヨークでマチューナスと親交を結んだ。今日のフィルムの逸話とはその頃の出来事についてである。
フルクサスの精神を継承するその後のベンの活動はアート、アーティストに関する常識をことごとく塗り替えるような非芸術的な、さらには反芸術的な展開を見せた。レイ・ジョンソン(Ray Johnson)が始めたメール・アート(Mail-Art)*2の活動やアートを否定するメッセージをアートにする逆説的なパフォーマンスで知られるだけでなく、フランスの政治学者フランソワ・フォンタン(François Fontanの「民族主義(ethnism)」に影響を受けたこともあり、消滅寸前のオック語(occitan language)を護る活動をはじめ、少数民族や言語の擁護活動でも知られる。
"L'art est inutile. Rentrez chez vous" (Art is Useless, Go Home.)という寺山修司の有名なフレーズにも一脈通じるようなフレーズでも有名なベン・ヴォーチェだが、しかし、彼のウェブサイトhttp://www.ben-vautier.com/のデザインを一目見れば分かるように、彼は「無用の用」をとことん追求している正真正銘のアーティストである。
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死の前年1977年シアトルで開催されたフルクサス祭後のマチューナスのインタビュー録音がここで聞ける。"clip1"にはベン・ヴォーチェの名前も登場する。
*1:Vautierのカタカナ表記はGoogleで検索した場合、「ヴォーチェ」が384件、「ヴォーティエ」が303件である。
*2:最近の電子メールに関わる例として、スパムメールをアートにしてしまう興味深い試みもある。http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20183347,00.htm