世界地図を逆さに見たり、半分に切ってみたりして

そういう人も少なくないと思うが、私は世界地図を逆さに見るのが好きだ。いつもは北を、大陸の方を向いている心を思い切り南に、太平洋に向ける。北を背に、大陸を背にして、南に心を開く。環太平洋をポジティブに意識する。清々しい気分になる。

小さい頃から見慣れた世界地図には、イデオロギーというか、思想というか、そういうものから自由で中立的な地理的な知識だけが盛り込まれているというのは大間違いで、世界を北を上にして日本列島を中心に見立てることは、立派なイデオロギーだ。

私の愛用の日本製世界地図は半分に切ってある。そしてその世界地図では両端にかけ離れたヨーロッパと南北アメリカ大陸を本来の位置関係において見るために、こうして置き換える。地球儀の代わりだ。そうすると、ヨーロッパの南北アメリカ大陸との距離感、また、例えば、ジョナス・メカスが、小国リトアニアから紆余曲折をへてニューヨークに辿り着いた軌跡や、ヨーロッパに断続的に回帰する道筋も多少はリアルにつかめると思うからだ。

日本製の世界地図が世界の地図だと思い込んでいたら、世界の本当の姿は見えないし、日本列島だって、北が上だと思い込んでいるかぎり、日本の本当の姿は見えない。今、私は北海道の札幌から北を背にして、南を見通すレッスンをしている。あのメチキチレ族が歌声だけ残し姿を消した南米アマゾンのジャングルは遠くないと思えてきた。